
この記事では、米国の有力財団とシンクタンクが実施した大規模調査の結果を基に、高齢者医療で私たちが本当に望むことは何か、その「本音」と、医師とのコミュニケーションを改善するための具体的なヒントについて、専門家が解説します。
この記事を読むと、3つのことがわかります。
- 高齢者が、現在の医療システムに抱いているリアルな不満とその理由。
- 医師に本当に伝えてほしい、高齢者が最も重視する4つの要望「4M」とは。
- 将来、自分や家族が後悔しないために、今からできる医療との向き合い方。
▼ 情報元紹介
講演者: テリー・フルマー(Terry Fulmer) 博士 & ケン・ディウォルド (Ken Dychtwald) 博士
経歴: テリー・フルマー博士/ニューヨークのThe John A. Hartford Foundation会長。米国・国際的に著名な老年医学・老年心理学の専門家で、高齢者医療の質向上運動「Age-Friendly Health Systems」やNICHEプログラムの創設で知られる。全米医学アカデミー会員・米国看護師協会Living Legend。|ケン・ディウォルド博士/老年学者・未来学者として世界的に著名であり、加齢と長寿社会の研究の第一人者です。エイジウェイブ(Age Wave)社の創設者兼CEOとして、45年以上にわたり高齢化社会のトレンドを予測・分析し、健康、就労、経済、社会への影響について多くの著書や講演を行っています。
出典元: https://www.youtube.com/watch?v=ZK6D4-G3KPw
親の最期、本当にあれで良かったのだろうか…?
親を見送った後、ふとした瞬間に、後悔の念が押し寄せてくる。「あの時、もっと本人の希望を聞いてあげられていれば…」「たくさんの薬を飲んでいたけど、本当に全部必要だったのだろうか…」
医師はいつも忙しそうで、本当に聞きたいことは聞けずじまい。ただ言われるがままに治療を受けさせ、延命させただけだったのではないか。
そんな、誰にも言えない心の澱。いつか訪れる自分自身の最期を思った時、同じ後悔を繰り返したくない。その漠然とした不安、あなただけではありません。
「お医者様にお任せします」その一言が、あなたの未来を蝕んでいませんか?

これまで私は、医療とは「専門家であるお医者様が、最善の治療をしてくれるもの」だと信じて疑いませんでした。自分の意見を言うなんて、おこがましい。黙って従うのが、患者としての“正しい”態度だと。
しかし、親の介護を通して、その考えは大きく揺らぎました。病気を治療することと、本人が幸せであることは、必ずしもイコールではない。その当たり前の事実に、なぜもっと早く気づけなかったのか。
あなたに、私と同じ後悔をしてほしくないのです。
もし、高齢者医療で本当に望むことを、医師にうまく伝えるための「魔法の言葉」があるとしたら?そして、その言葉を知るだけで、あなたやあなたの家族が受ける医療の質が劇的に変わる可能性があるとしたら。
その答えが、2,500人を超える高齢者の「本音」の中にありました。
高齢者医療で本当に望むこと。米国の高齢者の“本音”調査

ジョン・A・ハートフォード財団とAge Waveが実施した大規模調査は、高齢者が現在の医療システムに抱く、厳しい現実を浮き彫りにしました
米国の医療システム全体に「A評価(大変良い)」を与えた高齢者は、わずか11%。多くの人が、医療を「複雑で、分かりにくく、連携が取れていない」と感じ、経済的なコストや医療過誤を恐れているのです。
彼らが本当に望んでいるのは、単なる病気の治療ではありませんでした。
高齢者が健康よりも重視する「たった一つのこと」
高齢者が最も重視していたのは、病名や検査数値ではなく、「自分がやりたいことをやり続けられるか」という「機能(Function)」でした。一番の望みは、「家族や友人とより多くの時間を楽しむこと」。
そして、最大の恐怖は、がんや心臓病を抑え、圧倒的に「アルツハイマー病と認知症」でした。これは、自分自身を失うことへの根源的な恐怖を反映しています。
医師に伝えるべき、高齢者医療で望むこと「4M」
この調査から導き出されたのが、高齢者医療で本当に望むことを集約した、「4M」というフレームワークです。驚くべきことに、これら4つ全てについて医師が確認していると答えた高齢者は、わずか19%でした。
- What Matters(本人にとって重要なこと):
「先生、私にとって一番大切なのは、孫の結婚式に自分の足で出席することです」。病気の治療方針を決める上で、あなたの価値観や人生の目標を、医師は知りたいと思っています。 - Medication(薬):
「今飲んでいる8種類の薬、本当に全部必要ですか?」。多すぎる薬は、ふらつきや認知機能低下の原因にもなります。薬の管理と最適化は、生活の質に直結する重要な課題です。 - Mind(精神・認知機能):
「最近、少し物忘れが気になって…」。認知機能や、孤独感・うつといった精神的な健康状態は、身体の健康と同じくらい重要です。 - Mobility(移動能力):
「買い物に行ったり、友人に会ったり、自分で動ける体を維持したい」。日常生活の自立に不可欠な移動能力は、高齢者が最も守りたい「機能」の一つです。
「高齢者フレンドリーな医療」を、自分の手で創る

では、どうすれば、この理想の医療を現実のものにできるのでしょうか。
次の診察から使える「4M」という武器
この「4M」は、ただの標語ではありません。
それは、あなたが次の診察からすぐに使える、医師とのコミュニケーションを劇的に改善するための「武器」です。
診察の前に、「自分にとっての4M」をメモに書き出してみてください。「一番大切なことは何か」「薬で困っていることは何か」「心の状態はどうか」「体の動きで不安なことは何か」。
この4つの視点で自分の状態を整理し、医師に伝えるだけで、診察の質は大きく変わります。
医師は、あなたの「人となり」を理解し、病気だけでなく、あなたの人生に寄り添った提案をしやすくなるのです。
社会を変える一歩を、今日から
このウェビナーが提唱する「高齢者フレンドリーケア」は、社会全体の運動です。あなたが「4M」を意識して医師と対話することは、あなた自身の医療を良くするだけでなく、医療現場に「患者が本当に望むこと」を伝え、社会全体を変える小さくとも力強い一歩になるのです。
みんなの生声
関連Q&A

Q.高齢者が最も望む医療の具体的な内容は何か?
A. 調査によれば、高齢者医療で望むことは、単なる延命治療以上に、「家族と楽しい時間を過ごす」といった生活の質(機能)の維持です。専門家が指摘する具体的な内容は「4M」と呼ばれ、①自分にとって重要なこと(価値観)、②薬の管理、③認知・精神機能、④移動能力、という4つの側面を、医師が総合的に配慮してくれる医療を求めています。
Q. 高齢者はどのような医療を安心して受けたいと考えているか?
A. 高齢者は、自分の話に耳を傾け、一人の人間として尊重してくれる、信頼できる医療を安心して受けたいと考えています。現在の複雑で連携の取れていないシステムに不満を感じており、病気のデータだけでなく、自分の価値観や生活の目標を医師と共有し、パートナーとして治療方針を決定していけるような、分かりやすく安心感のあるコミュニケーションを望んでいます。
Q. 在宅医療のメリットと高齢者の満足度の関係は何か?
A. 多くの高齢者は、可能な限り住み慣れた自宅で過ごすことを望んでいます。在宅医療は、その願いを叶えるための重要な選択肢です。入院や施設入所による環境の激変やストレスを避け、自分のペースで生活を続けられるため、本人の精神的な安定と尊厳が保たれやすくなります。この「自分らしい生活の継続」が、高齢者の医療に対する満足度に直接的に繋がります。
まとめ
あらためて、今日の話の要点をおさらいします。
- 高齢者が本当に望むのは、病気の治療より「やりたいことができる」生活。
- 医師に希望を伝える武器として「4M」というフレームワークが有効である。
- 患者側から賢く働きかけることが、より良い医療、ひいては社会を創る。
「お医者様にお任せします」。その一言は、思考を停止させ、あなたの未来を他人任せにしてしまう、危険な言葉かもしれません。
あなたの人生の物語の主人公は、他の誰でもない、あなた自身です。診察室のドアを開ける前に、胸ポケットに「4M」という小さな羅針盤を忍ばせてみませんか。その小さな準備が、あなたの未来の航路を、より豊かで希望に満ちたものへと導いてくれるはずです。