
この記事では、ハーバード大学のハワード・ガードナー教授が提唱する「多重知能理論」に基づき、「自分の強みがわからない」というキャリアの悩みを解消するヒントを提供します。IQテストだけでは測れない、あなただけの本当の価値を見つける新しい視点をご紹介します。
この記事を読むと、3つのことがわかります。
- 「自分には才能がない」という長年の思い込みから解放される、科学的な理由がわかります。
- あなたにも必ず備わっている「8つの知能」の具体的な内容と、自分の得意な領域を見つけるヒントが得られます。
- 見つけた自分の強みを、これからのキャリアや「良い生き方」に繋げていくための考え方が身につきます。
出典:Howard Gardner Discusses Multiple Intelligences – Blackboard BbWorld 2016 HD
- 話し手:ハワード・ガードナー (Howard Gardner)
- 経歴:アメリカの発達心理学者。1983年に刊行した著書『Frames of Mind』で、従来のIQ(知能指数)の概念に異議を唱え、「多重知能理論」を提唱。人の知能は単一ではなく、複数の領域からなると主張し、世界の教育界に大きな影響を与えています。
目次
もしかして私、何の取り柄もない…?同期の出世や友人の転職話に、胸がざわついていませんか

仕事は、もう10年目。大きな失敗はないけれど、胸を張れるほどの専門性があるわけでもない。
ふと我に返る深夜の残業中や、休日の静かな部屋。「自分はこのままでいいんだろうか」「私の本当の強みって何だろう」。
SNSを開けば、きらきらした肩書で活躍する同世代。飲み会で語られる同僚の成果。
そのたびに、自分だけが空っぽな存在に思えて、心の隅がちりりと焦げるような感覚。転職サイトを眺めても、アピールできる「自分の強み」が見つからず、そっとブラウザを閉じてしまう。そんな夜を、何度繰り返してきたでしょうか。
なぜ私たちは「自分には才能がない」という呪いから逃れられないのでしょうか

これまでも、自分の強みを見つけようと、数え切れないほどの診断ツールを試してきました。でも、出てくる結果は「協調性がある」「真面目」といった、どこにでもいるような言葉ばかり。
「これが私の武器になるの?」としっくりこないまま、また新しい診断を探す。その繰り返しに、心の底ではもう疲れ果てていませんか。
過去の私もそうでした。「頭の良さは遺伝で決まる」という言葉に縛られ、学生時代の成績が自分の限界だと信じ込んでいました。でも、それは違ったのです。あなたを苦しめているのは、あなたの能力不足ではありません。
ただ、自分を測る「物差し」が、あまりにも古くて、一本しかなかっただけ。この記事は、見えない物差しに縛られてきた過去の私自身と、そして今のあなたを救いたい一心で書いています。
ハーバード大教授が解き明かす「8つの知能」という新しい物差し

ガードナー教授は、人間の能力はIQのような単一の物差しでは測れない、と断言します。私たちの頭の中には、1台の万能コンピューターではなく、それぞれ異なる機能を持つ「複数のコンピューター」が存在しているのです。
これが「多重知能理論」。人間には、文化や時代を超えて、少なくとも8つの普遍的な知能があることを突き止めました。
言葉を巧みに操る「言語的知能」
言葉を使って考え、表現する能力です。文章を書く、話す、人の話を理解することが得意な人はこの知能が高いと言えます。作家、ジャーナリスト、弁護士、編集者、コピーライターなどがこの知能を活かしています。
論理と数字を扱う「論理数学的知能」
論理的に考え、数字や抽象的な概念を扱う能力です。問題解決や分析が得意な科学者、数学者、プログラマー、会計士、データアナリストなどが当てはまります。一般的にIQテストで測られる主要な知能です。
音とリズムを感じる「音楽的知能」
リズムやメロディー、音色を感じ取り、創造・表現する能力です。その構造を理解したり、感情を読み取ったりする力も含まれます。作曲家、演奏家、指揮者、音楽教師、サウンドクリエイターなどがこの知能に優れています。
空間をイメージする「空間的知能」
視覚的な世界を正確に認識し、心の中で空間的なイメージを操る能力です。建築家、パイロット、画家、デザイナー、都市計画家、外科医のように、空間を把握しデザインする力が求められる職業で活かされます。
身体で表現する「身体運動的知能」
身体全体または一部を巧みに使って、物事を表現したり、問題を解決したりする能力です。アスリート、ダンサー、俳優のように全身を使う場合もあれば、職人、理学療法士のように手先を精密に使う場合もあります。
他者を理解し関わる「対人的知能」
他者の感情や動機、欲求を敏感に察知し、効果的にコミュニケーションをとる能力です。カウンセラー、教師、政治家、セールス担当、マネージャー、人事担当など、人と深く関わる仕事で力を発揮します。
自分自身と向き合う「内省的知能」
自分自身を深く理解し、自分の感情や思考をコントロールする能力です。自分が何者で、何をしたいのかを把握する力は、哲学者、心理学者、作家、起業家、コンサルタントなどに求められます。
自然を識別し分類する「博物的知能」
自然界の様々な事象を認識し、分類・識別する能力です。生物学者、考古学者、造園家、シェフのほか、消費者の動向を分類するマーケターなど、パターン認識が重要な仕事で活かされる普遍的な知能です。
あなたにも、これら8つの知能が、ユニークな組み合わせで必ず備わっています。
あなたの「知能」を「良い人生」に変えるための3つの要素

自分の得意な知能がわかったら、それをどう活かすかが重要です。ガードナー教授は、知能そのものに善悪はなく、「何のために使うか」が何よりも大切だと説きます。
目指すべきは「グッド・ワーカー(良い仕事をする人)」。それは、以下の3つの「E」を兼ね備えた人物を指します。
- 専門的に優れている (Excellent):自分の分野を熟知し、高い技術を持つ。
- 自分の仕事に情熱を持っている (Engaging):仕事に意味を見出し、夢中になっている。
- 倫理的である (Ethical):自分の仕事が社会に与える影響を考え、責任ある行動をとる。
この3つの円が重なる領域にこそ、あなたの強みが活かされ、心から満たされるキャリアがあります。
この理論の背景には、私たちの脳がいかに柔軟で、画一的な物差しでは測れない可能性を秘めているかという事実があります。
事実、ガードナー教授は講演の中で、驚くべき事例をいくつか紹介しています。例えば、難治性てんかんの治療で脳の半分を摘出したにもかかわらず、残された脳が再編成され、フェンシングや絵画の才能を発揮した青年。また、自閉症と診断されながらも、大好きなディズニー映画を繰り返し観ることを通して、他者の感情という複雑な世界を学び、社会性を身につけていった青年の話です。
これらは、私たちの脳が持つ「可塑性」と、人が学び成長する道のりの多様性を示す、何より力強い証拠と言えるでしょう。
「自分の強みがわからない」と立ち止まっている今こそ、この8つの物差しで自分を見つめ直す絶好の機会です。
みんなの生声
関連Q&A
Q.「自分の強みがわからない」という不安はどうすれば解消できますか?
A:まず、自分を測る物差しが「IQや学歴だけではない」と知ることが第一歩です。この記事で紹介するハーバード大学提唱の「8つの知能」という視点から、過去の経験や、やっていて苦にならないことを振り返ってみてください。他人との比較ではなく、自分固有の知能の組み合わせに目を向けることで、不安は自分への興味に変わっていきます。
Q:「8つの知能」とは、具体的にどんなものがあるのですか?
A:言葉を操る「言語的知能」、論理的に考える「論理数学的知能」、音を感じる「音楽的知能」、空間を把握する「空間的知能」、身体で表現する「身体運動的知能」、他者を理解する「対人的知能」、自己を省みる「内省的知能」、自然を識別する「博物的知能」の8つです。誰もがこれら全てを持っており、その得意・不得意の組み合わせが個性を形作ります。
Q:見つけた自分の強みを、これからの仕事にどう活かせばいいですか?
A:ガードナー教授は、専門性(Excellent)、情熱(Engaging)、倫理観(Ethical)の3つを兼ね備えた「良い仕事」を目指すべきだと説いています。自分の得意な知能(強み)を活かせる分野で専門性を磨き、情熱を注げるテーマを見つけ、倫理的な方法で社会に貢献すること。この3つの円が重なる領域に、あなただけの天職が見つかるはずです。
まとめ
あらためて、今日の話の要点をおさらいします。
- 人間の能力は単一ではなく、誰にでも「8つの異なる知能」が備わっています。
- 「自分の強み わからない」のは、あなたに能力がないのではなく、測る物差しが合わなかっただけです。
- 見つけた強みを「専門性・情熱・倫理観」と掛け合わせることで、あなただけの「良い仕事」が見つかります。
あなたの価値は、一つの物差しでは決して測れません。履歴書には書けなかったけれど、あなたをずっと支えてきた能力が必ずあります。
この記事を読み終えたら、温かいコーヒーでも淹れて、あなたの「8つの知能」のプロフィールをじっくり探してみてください。その香りの向こうに、昨日より少しだけ解像度の上がった、新しい自分の姿が見えてくるはずです。
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