
食べる量を減らさなくても、食べる時間を変えるだけで健康になれるかもしれません。そんな夢みたいな話、信じられますか?国際的な科学誌『Scientific Reports』に掲載された最新研究が、その可能性を示唆しました。
このニュースの要点は、下記3つです。
- ラマダン式の時間制限食が、肥満ラットにおいて、老化を促進する分子(mTORなど)を抑制し、長寿に関連する分子(AMPKなど)を活性化させたこと。
- この食事法が、カロリー制限を行わなくても、体内の慢性炎症や酸化ストレスを大幅に改善したこと。
- これは、食べる「時間帯」を制限することが、細胞を「成長モード」から「修復モード」へと切り替える強力なスイッチになる可能性を示唆していること。
▼ 出典元
なぜ断食研究は、いつも結果がバラバラなのか?
「16時間断食」や「プチ断食」といった、時間制限食(TRE)が健康に良いという話は、あなたも一度は耳にしたことがあるでしょう。しかし、その効果については専門家の間でも意見が分かれ、研究結果も一貫していませんでした。
その大きな理由は、人間を対象とした研究では、睡眠時間や食事の内容、運動量といった、結果に影響を与えうる他の要因を完全にコントロールすることが、非常に難しかったからです。
この問題を解決するため、サウジアラビアの研究チームは、これらの要因を厳密に管理できる動物(ラット)を用いて、「ラマダン式」と呼ばれるユニークな時間制限食の効果を科学的に検証し、その結果を2024年、国際的な科学誌『Scientific Reports』に発表しました。
ラマダン式断食とは?科学が注目したそのユニークさ
ラマダン式断食は、イスラム教のラマダン期間中に行われるもので、夜明けから日没まで、食事だけでなく水も一切口にしないという特徴があります。
今回の研究では、ラットの活動時間である夜間(人間にとっての昼間に相当)に13時間の断食をさせ、非活動時間である昼間に食事を与えるという「ラマダン式断食モデル(RFM)」が採用されました。特に、高脂肪食で肥満状態になったラットで、驚くべき結果が見られました。
細胞レベルで起きていた「若返りスイッチ」のON/OFF
カロリー摂取量は同じでも、食べる時間を制限しただけで、肥満ラットの体内では劇的な変化が起きていました。
- 老化の“アクセル”がOFFに:
細胞の成長を促し、過剰になると老化を促進するとされるシグナル伝達経路「mTOR」や「IGF-1」が、断食によって有意に低下しました。 - 細胞の“修復スイッチ”がONに:
細胞内のゴミ掃除機能(オートファジー)を活性化させる長寿関連分子「AMPK」が、断食によって有意に上昇。この効果は、運動を組み合わせることでさらに高まりました。 - 体内の“火事”が鎮火:
万病の元と言われる「慢性炎症」の指標(IL-6, TNF-α)が大幅に減少し、体をサビつかせる「酸化ストレス」も改善。体が本来持つ抗酸化力が高まることも確認されました。
日本の私たちにとっての意味とは?
この研究が画期的なのは、食べる「量」を変えなくても、食べる「時間」を変えるだけで、細胞レベルで体を「成長・炎症モード」から「修復・防御モード」へと切り替えられる可能性を、厳密な条件下で科学的に示した点です。
もちろん、これは動物実験の結果であり、人間、特に水分補給が重要な高齢者などが、そのまま真似をすべきではありません。
しかし、このニュースは、「何を食べるか」だけでなく、「いつ食べるか、いつ食べないか」という時間軸が、私たちの健康と長寿に、想像以上に大きな影響を与えていることを教えてくれます。
まとめ
あらためて、このニュースの要点をおさらいします。
- ラマダン式の時間制限食が、肥満ラットにおいて、老化を促進する分子(mTORなど)を抑制し、長寿に関連する分子(AMPKなど)を活性化させたこと。
- この食事法が、カロリー制限を行わなくても、体内の慢性炎症や酸化ストレスを大幅に改善したこと。
- これは、食べる「時間帯」を制限することが、細胞を「成長モード」から「修復モード」へと切り替える強力なスイッチになる可能性を示唆していること。
腹八分目と言いますが、もしかしたら「時間八分目」くらいが、これからの健康のキーワードになるのかもしれません。