
「どこに住むか」が、あなたの寿命にどう影響するか考えたことはありますか?米国の名門イェール大学が、100年という壮大な研究で、住む場所と寿命の間に存在する驚くべき関係を明らかにしました。これは、遠い国の話なのでしょうか?
このニュースの要点は、下記3つです。
- イェール大学の100年にわたる研究で、米国内でも州によって寿命に最大20年以上の驚くべき差があることが明らかになったこと。
- この「健康格差」の主な原因は、貧困率などの社会経済的要因や、禁煙政策といった各州の公衆衛生への取り組みの違いであること。
- 個人の努力だけでなく、生まれてから育つまでの環境や政策が、世代全体の健康と寿命に長期的な影響を与えること。
▼ 出典元
Century-Long Study Reveals Startling Differences in Life Expectancy Across U.S. States
「生まれた場所」で寿命が20年も違うという現実
米国東部の名門、イェール大学公衆衛生大学院の研究チームが、100年という壮大なスケールで、米国民の寿命に関する衝撃的な事実を明らかにしました。
2025年4月に学術誌『JAMA Network Open』に発表されたこの研究は、過去1世紀以上にわたる1億7900万件以上の死亡記録を分析。その結果、住んでいる州によって平均寿命に絶望的とも言えるほどの大きな差が存在することが分かったのです。
例えば、ニューヨーク州やカリフォルニア州のような地域では、この100年で寿命が20年以上も延びました。一方で、ミシシッピ州やアラバマ州といった南部の州では、特に女性において、寿命の延びがわずか3年未満にとどまるという驚くべき結果が出ました。
なぜ「コホート研究」が重要なのか
今回の研究が画期的なのは、単に年ごとの死亡率を比較したのではなく、「コホート」という手法を用いた点にあります。
「コホート」とは、同じ年に生まれた人々のグループのことです。このグループを追跡することで、研究者たちは、その世代が若い頃にどんな社会環境に置かれていたか(例えば、衛生環境や予防接種の普及率、喫煙が当たり前だったかなど)が、後々の健康や寿命にどう影響したかを正確に捉えることができます。
研究チームのセオドア・R・ホルフォード (Theodore R. Holford) 教授は、「コホートで死亡率の傾向を見ることで、集団の生きた経験をより正確に反映できる」と述べています。年ごとの比較では見えにくい、政策や社会状況の長期的なインパクトが明らかになるのです。
寿命の差を生む「たばこ政策」という具体例
では、具体的に何が寿命の差を生み出しているのでしょうか。研究チームは、各州の「政策」が決定的な役割を果たしていると指摘します。
その最も分かりやすい例が、たばこ規制です。
カリフォルニア州は、1995年にいち早く職場での禁煙法を導入しました。これにより、若い世代はたばこの煙がない環境で育ち、働く世代の禁煙も促進されました。
対照的に、ケンタッキー州のような地域では、たばこ規制への取り組みがほとんど行われませんでした。その結果、喫煙率が高いままで、カリフォルニア州に比べて死亡率も高くなりました。
この事実は、公衆衛生への投資や環境保護といった政策が、単なるスローガンではなく、そこに住む人々の命の長さに直接結びついていることを明確に示しています。
「健康に老いる」ことにも地域差が
この研究は、もう一つ興味深い指標を用いています。それは、35歳以降に死亡リスクが2倍になるまでにかかる年数(死亡率倍加時間)です。この時間が長ければ長いほど、「健康的に老いている」と言えます。
ここでも州による大きな差が見られました。ニューヨーク州やフロリダ州では死亡リスクの上昇が緩やかだったのに対し、オクラホマ州やアイオワ州ではリスクの上昇が急でした。
ホルフォード教授は、「今日我々が見ている格差は、喫煙率、医療へのアクセス、環境への暴露、公衆衛生への投資といった、何十年にもわたる効果の積み重ねの結果だ」と強調します。
まとめ
あらためて、このニュースの要点をおさらいします。
- イェール大学の100年にわたる研究で、米国内でも州によって寿命に最大20年以上の驚くべき差があることが明らかになったこと。
- この「健康格差」の主な原因は、貧困率などの社会経済的要因や、禁煙政策といった各州の公衆衛生への取り組みの違いであること。
- 個人の努力だけでなく、生まれてから育つまでの環境や政策が、世代全体の健康と寿命に長期的な影響を与えること。
この記事が示すのは、個人の努力だけでは越えられない「健康格差」という現実です。これは遠い国の話ではなく、私たちが住む社会のあり方そのものが、未来の世代の寿命を左右するという厳しい事実を突きつけています。自らの健康と将来を、住む場所や環境、あるいは偶然に委ねるのか。それとも、社会の一員として、より良い環境を未来へ手渡すための選択をしていくのか。この研究は、私たち一人ひとりにその重い問いを投げかけています。