
この記事では、著名な長寿研究医であるピーター・アッティア (Peter Attia) 博士のポッドキャストを基に、目先のパフォーマンスではなく、80歳、90歳になっても最高の状態でいるための「動ける体の作り方」とその哲学について解説します。
この記事を読めば、下記3つのことがわかります。
- なぜ「最高の40歳」を目指すと、将来の動ける体を損なってしまうのか。
- 怪我や痛みの本当の原因と、再発を防ぐための根本的な回復アプローチ。
- 80歳になっても孫と走り回れる「動的な安定性」という新しい体の考え方。
▼ 情報元紹介
- 講演者: カイラー・ブラウン(Kyler Brown)氏、ピーター・アッティア(Peter Attia)教授
- 経歴: カイラー・ブラウン氏/アメリカ・テキサス州オースティン拠点のスポーツリハビリ専門カイロプラクターであり、「WellSport」オーナー、10 Squaredの共同創業者|ピーター・アッティア/スタンフォード大学医学部卒の医師・作家。長寿医学の専門家
- 出典元: 350 ‒ Injury prevention, recovery, and performance optimization for every decade
※この記事は、講演の紹介であり、医学的アドバイスではありません。健康に関する判断は必ず医師にご相談ください。
「昨日までできたのに…」なぜ、ある日突然、体はあなたを裏切るのか?

若い頃は、一晩寝ればどんな疲れも取れた。徹夜明けでフットサルをしても、次の日にはケロッとしていた。なのに、今はどうだ? ちょっと変な体勢でくしゃみをしただけで腰に激痛が走り、数日動けなくなる。子供と本気で鬼ごっこをしたら、アキレス腱が悲鳴を上げた。まるで自分の体が、自分のものではなくなったような感覚。「運動不足かな」と思ってジムに通い始めても、昔のようにベンチプレスを上げようとしたら肩を痛める始末。良かれと思ったことが、すべて裏目に出る。このまま年々動けなくなって、孫が生まれた頃には抱っこもままならない、ただ痛みに耐えるだけの老人になってしまうんだろうか…。そんな恐怖が、ふとした瞬間に胸をよぎることはありませんか。その不安、実はあなたの努力不足が原因ではないのかもしれません。
その場しのぎのリハビリに、もうお金と時間を無駄にするのはやめませんか?

これまで、どれだけ多くの時間とお金を「痛み」に費やしてきたでしょうか。「腰痛専門」「肩こり改善」…魅力的な看板を信じて整体やマッサージに通い、その場では楽になる。でも、数日経てば元通り。電気治療や湿布でごまかし続ける日々に、「もうこの痛みとは一生付き合っていくしかないのか」と、半ば諦めていました。痛みの原因を本当に理解しようとせず、ただ対症療法を繰り返すのは、穴の空いたバケツに水を注ぎ続けるようなものです。私は、あなたにそんな無駄な努力をもうしてほしくない。もし、その繰り返す痛みの根本原因が、「痛い場所」とは全く別のところにあるとしたら?そして、正しいアプローチさえ知れば、手術さえも回避し、痛みから解放されるだけでなく、以前よりずっと強く、しなやかな体を手に入れられるとしたら?その答えの鍵は、「能力(キャパシティ)の再構築」という視点にあります。
80歳で最高の自分になるための「100歳での十種競技」

アッティア博士が提唱するのは、「センテナリアン・デカスロン(100歳での十種競技)」という画期的な目標設定です。これは、あなたが人生の最終局面(80代、90代)で「絶対にできていたいこと」を、具体的な10個の競技種目としてリストアップすることから始まります。「孫を肩車する」「20kgのスーツケースを棚に上げる」「床からスッと立ち上がる」…なんでも構いません。重要なのは、この遠い未来の目標から逆算して、今のトレーニングを設計することです。例えば「100ヤード(約91m)先を正確に射抜けるアーチェリー選手」を目指して訓練すれば、40ヤード先の的を射抜くことなど、いとも簡単になります。同様に、「最高の80歳」を目指して体を鍛えれば、40代、50代のパフォーマンスは必然的に向上し、怪我のリスクは劇的に減少するのです。このアプローチは、目先の成果に一喜一憂するのではなく、揺るぎない土台を築き、長期的な視点で身体能力という資産を積み上げていく、最も確実な戦略です。
今日から始める、未来の自分のための「動的な安定性」トレーニング

では、具体的に何をすればいいのでしょうか。その答えは、子供の動きの中にあります。子供は、走って、急に止まり、ジャンプして、体をひねって着地する、といった予測不能な動きを平然と行います。この能力こそが、私たちが失ってしまった「動的な安定性」です。これは、ただ体幹を固める静的な安定とは全く異なります。まるで高性能なレースカーのように、安定した体幹を軸に、手足がしなやかに爆発的な力を生み出す能力です。この能力を取り戻すために、リハビリの専門家であるカイラー氏は、急がば回れの原則を説きます。いきなり重い負荷をかけるのではなく、まずはアイソメトリクス(静的な筋収縮)で腱や筋肉を目覚めさせ、次に負荷を軽くした状態で速い動きを取り入れ、最終的に自重以上でのダイナミックな動きに繋げていく。この丁寧なプロセスこそが、怪我を防ぎ、真に「動ける体」を再構築する唯一の道なのです。まずは、片足で立って靴下を履いてみる。そんな小さな一歩から、あなたの「100歳での十種競技」は始まります。
みんなの生声
関連Q&A

Q.どうすれば継続的に動ける体を作れるのか?
A. 「最高の80歳」を目標に、長期的な視点を持つことが重要です。特定の筋肉を鍛えるだけでなく、体の安定性を高める基礎作りを意識しましょう。筋力、バランス、柔軟性をまんべんなく鍛え、強度よりも継続を重視することが、怪我を防ぎ、一生モノの動ける体につながります。日々の小さな積み重ねが、将来の大きな資産となります。
Q. 自宅でできる効果的な体幹トレーニングは何か?
A. 腹筋を固めるだけの運動ではなく、体幹を「安定した筒」として捉え、手足が動いてもブレないようにする練習が効果的です。「デッドバグ」や「バードドッグ」といった運動は、ゆっくりとした動きで体幹の深層筋を刺激し、動的な安定性を高めます。見た目の派手さより、正しいフォームで丁寧に行うことが、動きやすさを向上させる鍵となります。
Q. 姿勢矯正と動きやすさの関係は何か?
A. 良い姿勢は、効率的な動きの土台です。姿勢が崩れていると、体は正しく力を伝えられず、一部の筋肉が過剰に働くことで痛みやこりの原因となります。これは、動きの自由度を奪い、怪我のリスクを高めます。姿勢を整えることは、全身の筋肉がバランス良く連携するための準備運動のようなもの。結果として、より少ない力でスムーズに動けるようになり、パフォーマンスが向上します。
まとめ
あらためて、今日の話の要点をおさらいします。
- 目標は「最高の40歳」ではなく「最高の80歳」。長期的な視点が今のあなたを強くする。
- 怪我や痛みの根本原因は「能力の低下」。対症療法ではなく、能力の再構築を目指す。
- ただ固めるだけではない「動的な安定性」こそが、一生モノの動ける体を作る鍵。
年を重ねることを、ただ衰えていくだけの引き算だと考えるのは、もうやめにしませんか。今日の小さな一歩は、10年後、20年後のあなたへの最高の贈り物になります。久しぶりに公園の鉄棒にぶら下がった時のような、自分の体の重さと可能性を感じてみてください。未来のあなたは、今日のあなたが始めたこのトレーニングに、きっと感謝するはずです。