
住む場所によって寿命が20年も変わるという事実は、まるでSFのように聞こえるかもしれません。しかし、これはアメリカの大都市で実際に起きている現実です。米国のニュースメディアが報じた、健康とお金の根深い関係について、他人事と考えずに、ぜひお読みいただければと思います。
このニュースの要点は、下記3つです。
- 米ボストン市内で、富裕層と低所得層の地域との間に最大20年以上の平均寿命の差(健康格差)が存在すること。
- 市は、この格差の根本原因が医療へのアクセスだけでなく、貧困や経済的な不安定さにあると特定したこと。
- その対策として、医療ではなく、地域住民の「富と経済的安定を築く」ためのコミュニティ組織に500万ドル(約8億円)の助成金を投じること。
▼ 出典元
Boston Mayor Wu directs $5M to 3 poorest neighborhoods to close 20-year life expectancy gap
「住む場所」で寿命が23年も短いという衝撃の事実
「あなたの寿命は、あなたが住む郵便番号で決まるかもしれない」。そんな残酷な現実が、アメリカの大都市ボストンで、明確な数字として示されました。
2025年7月28日、米国の新聞社ボストン・ヘラルドは、ミシェル・ウー (Michelle Wu) 市長が、市内に存在する深刻な寿命格差を是正するため、500万ドルの助成金プログラムを発表したと報じました。
ボストン公衆衛生委員会のビソラ・オジクトゥ (Bisola Ojikutu) 氏によると、市内でも最も裕福な地区の一つであるバックベイの住民の平均寿命が92歳であるのに対し、主に黒人住民が多く住むロクスベリー地区では、平均して23年も早く亡くなっているというのです。
オジクトゥ氏は、「あなたがどれだけ長く生きるかは、人種や民族、郵便番号に依存すべきではありません。すべてのボストン市民が、長く健康的な生活を送るべきです」と語ります。これは、もはや個人の健康意識の問題ではなく、社会構造が生み出した深刻な「健康格差」なのです。
なぜ「健康」の問題に「お金」で対処するのか?
この問題に対して、ボストン市が打ち出した解決策は、新しい病院を建てることでも、最新の医療機器を導入することでもありませんでした。彼らが選んだのは、貧困地区の住民の「経済的安定を築く」ことへの投資です。
なぜなら、調査の結果、寿命格差の根本原因は、医療そのものよりも、貧困、不十分な住居、飢えといった経済的な要因にあることが明らかになったからです。
市のデータによれば、ボストン全体の世帯収入の中央値が約9万5千ドル(約1500万円)であるのに対し、寿命が最も短いロクスベリー地区の中央値は、その半分以下の約5万ドル(約800万円)に過ぎません。
日々の支払いに追われ、住居や食料といった必需品を手に入れるために何かを我慢しなければならない状況では、人々は健康を維持するための時間的・経済的余裕を失い、糖尿病や心臓病といった慢性疾患のリスクが高まってしまうのです。
市長が語る「健康は医療だけでは作れない」という哲学
今回の助成金は、移民を支援する団体やフードバンク、キャリアトレーニングを提供するNPOなど、12の地域組織からなる4つのパートナーシップに分配されます。
その内容は、金融リテラシー教育や就職支援、英語教育、食料配布、信用情報構築のサポートなど、多岐にわたります。
ウー市長は、「住民が長く健康で喜びに満ちた生活を送れるようにするには、医療への投資だけでは不十分です。人々を健康にするもの、つまり住居、栄養価の高い食物へのアクセス、経済的流動性への投資を意味します」と語ります。
このアプローチは、病気の「症状」を治療するのではなく、病気を生み出す「社会環境」そのものを治療しようという、より本質的な試みと言えるでしょう。
日本の私たちにとっての意味とは?
「人種問題が絡むアメリカの特殊な話」と片付けてしまうのは簡単です。しかし、日本においても、地域間での平均寿命の差や、所得と健康状態の相関関係は、数多くのデータで示されています。
このボストン市の取り組みが示唆するのは、「健康」という個人の問題が、実は私たちが生きる社会の「経済」や「政策」と分かちがたく結びついているという事実です。
将来の健康不安を解消するためには、日々の運動や食事に気をつけるだけでなく、自らの経済的安定をどう築くか、そして、どのような社会を次世代に残していくのか、というより大きな視点を持つことが不可欠なのかもしれません。
まとめ
あらためて、このニュースの要点をおさらいします。
- 米ボストン市内で、富裕層と低所得層の地域との間に最大20年以上の平均寿命の差(健康格差)が存在すること。
- 市は、この格差の根本原因が医療へのアクセスだけでなく、貧困や経済的な不安定さにあると特定したこと。
- その対策として、医療ではなく、地域住民の「富と経済的安定を築く」ためのコミュニティ組織に500万ドル(約8億円)の助成金を投じること。
国や自治体の対策を待つこともできますが、その間にも、あなたの健康寿命という貴重な時間は過ぎていきます。結局のところ、ご自身の健康を守れるのは、自分自身に他なりません。この現実を踏まえ、あなたはこれからどう行動しますか。