
海外メディア「NBC News」が報じた、科学誌「Nature Communications」掲載の最新研究についてお届けします。コロナに感染していなくても、あの閉塞的な日々が、私たちの脳に予想外の影響を与えていたかもしれません。脳の老化とその対策について考えてみましょう。
このニュースの要点は、下記3つです。
- 英国の研究で、パンデミック期間中に、コロナ非感染者でも脳の老化(萎縮など)が平均5.5ヶ月加速していたことが示された。
- その原因は、ウイルス感染ではなく、ロックダウンによる心理的ストレス、社会的孤立、生活習慣の変化などと推測されている。
- 専門家は、運動、適切な血圧管理、睡眠、社会的な交流といった健康的な生活習慣が、これらの変化を打ち消す可能性があると指摘している。
▼ 出典元
The pandemic aged our brains, whether we got Covid or not, study finds
「最近、物忘れが…」コロナのせいだけではないかもしれません
2020年から始まった、新型コロナウイルスの世界的な大流行。私たちの生活は一変し、今なおその影響は様々な形で残っています。特に「コロナ後遺症」による思考力の低下や記憶力の問題は、メディアでも度々取り上げられてきました。
しかし、もし、あなたがコロナウイルスに感染していなかったとしても、あのパンデミックの日々が、あなたの脳の老化を密かに加速させていたとしたら…?
2025年7月23日、権威ある科学誌「Nature Communications」に掲載された英国ノッティンガム大学の研究が、そんな衝撃的な可能性を明らかにしました。
コロナ非感染者にも見られた「脳の老化」
研究チームは、英国の巨大な健康データベース「UKバイオバンク」に蓄積された、数万人規模の脳スキャンデータを活用しました。AIを用いて、パンデミック以前の健康な人々の脳がどのように加齢変化していくかの基準モデルを作成。その上で、パンデミック期間中(主に2021年〜2022年)にスキャンされた脳と比較分析を行いました。
その結果は、驚くべきものでした。
パンデミック期間中にスキャンされた脳は、コロナウイルスに感染していない人々でさえ、基準モデルと比較して平均で5.5ヶ月分、老化が加速している兆候(脳の萎縮など)を示したのです。
この老化効果は、特に男性や、社会経済的に恵まれない背景を持つ人々で顕著でした。
なぜ脳の老化は加速したのか?
この研究は、脳が老化した具体的な原因を特定するものではありません。しかし、研究チームは、その原因がウイルス感染そのものではなく、パンデミックがもたらした複合的なストレスにあると推測しています。
- 心理的ストレス: 将来への不安、感染への恐怖
- 社会的孤立: ロックダウンや外出自粛による人との交流の減少
- 生活習慣の乱れ: 在宅勤務による運動不足、食生活や睡眠サイクルの変化
論文の筆頭著者であるアリ=レザ・モハマディ=ネジャド氏は、「脳の健康は、病気だけでなく、より広い人生経験によっても形作られることを浮き彫りにした」と述べています。南極での長期滞在者の脳が萎縮したという過去の研究もあり、社会的孤立が脳に物理的な影響を与える可能性は以前から指摘されていました。
ただし、認知機能の低下が見られたのは「感染者のみ」
この研究のもう一つの興味深い点は、脳の構造的な老化が見られた一方で、処理速度や精神的な柔軟性といった認知機能の低下が明確に確認されたのは、実際にコロナウイルスに感染した人々だけだったことです。
これは、ウイルスそのものが脳に与える直接的な影響の存在を示唆しており、コロナ後遺症や慢性疲労症候群のメカニズムを解明する手がかりになるかもしれません。
コロナに感染しなかった人々の脳に起きた構造的変化が、将来的に認知機能の低下につながるかどうかは、この研究からはまだ分かっていません。
まとめ
あらためて、このニュースの要点をおさらいします。
- 英国の研究で、パンデミック期間中に、コロナ非感染者でも脳の老化が平均5.5ヶ月加速していたことが示された。
- その原因は、ウイルス感染ではなく、ロックダウンによる心理的ストレスや社会的孤立などと推測されている。
- 専門家は、運動、睡眠、社会的な交流といった健康的な習慣が、これらの変化を打ち消す可能性があると指摘している。
「コロナには罹らなかったのに、脳だけ年を取っていた──そう言われると、何ともやりきれませんね。
もしかすると、あなたも『あの頃は大変だった』と話を終わらせているかもしれませんが、体はしっかりとその記憶を刻んでいるのです。
とはいえ、専門家たちが『運動をしましょう』『よく眠りましょう』『人と会話をしましょう』と、基本的なことをあらためて伝えてくれているのは救いです。