
2025年7月14日に海外で報じられた、AI創薬分野における注目のニュースを紹介します。老化研究の世界的リーダーと、AI技術を駆使するバイオテック企業が手を組むことで、私たちの未来の健康はどう変わるのでしょうか?
このニュースの要点は、下記3つです。
- 老化関連疾患の治療薬開発を目指すAIバイオテック企業「Gero」が、著名な老化生物学者であるブライアン・ケネディ博士を取締役に迎えた。
- ケネディ博士は、長寿遺伝子として知られる「サーチュイン」研究の第一人者であり、老化研究を臨床応用につなげる実績を持つ。
- この人事は、「老化」という根本原因そのものを治療ターゲットとする「AI創薬」の流れが、世界的に加速していることを象徴している。
▼ 出典元
Gero Appoints Longevity Expert Dr. Brian Kennedy to Board of Directors
Gero社が業界注目の新体制
今回ニュースになったのは、2025年7月14日に発表された、ある企業の取締役就任のニュースです。
- 会社名:Gero(ジェロ)社
- シンガポールに本社を置く、AI(人工知能)を活用して老化関連疾患の治療薬開発を目指す、プレクリニカル(臨床試験前)段階のバイオテクノロジー企業。
- 就任した人物:ブライアン・ケネディ (Brian Kennedy) 博士
- 老化生物学とトランスレーショナル長寿研究(基礎研究を臨床応用につなげる研究)における、世界的に認められたリーダー。シンガポール国立大学の特別教授を務めています。
簡単に言えば、「AIを使って老化の根本原因に効く薬を作ろうとしているイケイケのベンチャー企業」が、「その道の超大物である、世界的な研究者」を経営メンバーとして迎え入れた、ということです。これは、この業界において非常に大きな意味を持つ出来事です。
ケネディ教授の就任が話題となる理由
ケネディ博士は、ただの偉い学者ではありません。彼は、老化研究の世界において、いくつかの重要な実績を持つ人物です。
- サーチュイン研究のパイオニア:
彼は、若返り遺伝子・長寿遺伝子として知られる「サーチュイン」が、老化に関わっていることを世界で初めて論文で示した共著者の一人です。これは、老化研究における基礎的な大発見とされています。 - 研究を「実用化」する実績:
彼は、米国の著名な老化研究機関である「バック加齢研究所」の所長兼CEOを務めるなど、基礎研究の成果を、実際の臨床やビジネスにつなげる「トランスレーショナル・リサーチ」で豊富な経験を持っています。
Gero社のCEOであるピーター・フェディチェフ博士は、「ケネディ博士の指導は、我々が臨床試験に向けてプログラムを進める上で、計り知れない価値がある」とコメントしています。つまり、Gero社は、ケネディ博士の科学的知見と実用化への経験を借りて、AI創薬のプロセスを一気に加速させようとしているのです。
「老化の謎にAIで挑む」Gero社、“AI創薬”による次世代治療薬開発の全貌
従来の創薬は、特定の病気(がん、糖尿病など)に対して、一つ一つ薬を探していくアプローチでした。しかし、Gero社のアプローチは根本的に異なります。
彼らは、「老化」そのものが、様々な病気の根本原因であると考えています。そして、AIと物理学ベースの機械学習モデルを用いて、膨大な人間のデータを解析し、老化の根本的なメカニズムを標的とする新しい治療薬を見つけ出そうとしています。
ケネディ博士も、「Gero社のアプローチは、人間の健康寿命を延ばすことができる新規治療薬への、最も有望な道の一つだ」と、そのビジョンに期待を寄せています。
この動きは、「病気ごとに対処する医療」から、「老化という根本原因に対処する医療」へという、大きなパラダイムシフトを象徴しています。AIの力を借りることで、かつては不可能だった、老化そのものに挑む創薬が可能になりつつあるのです。
まとめ
さて、長いことお付き合いいただき、ありがとうございました。
世界の最先端の話を聞いて、少しクラクラしているかもしれませんね。
あらためて、このニュースの要点をおさらいします。
- 世界の最先端では、AIを使って「老化」という根本原因にアプローチする新しい創薬(AI創薬)が加速している。
- 老化研究の世界的権威が、その知見を実用化するために、AI創薬ベンチャーの経営に参画する動きが出ている。
- これは、将来的に「病気を個別に治す」時代から「老化をコントロールして、まとめて病気を予防する」時代へと変わる可能性を示唆している。
これは、遠い国の専門的なニュースではありません。私たちが日々向き合っている「老い」や「病」に対する、未来の常識が今まさに作られている、という現場からのレポートです。