
この記事では、米国の老人学専門家、マシー・P・スミス博士のインタビューを基に、多くの人が直面する親の認知症という深刻な問題への向き合い方について解説します。
この記事を読めば、下記3つのことがわかります。
- 「ただの物忘れ」と「認知症の初期症状」の決定的な違い
- 病院に行きたがらない親を、どうやって受診につなげればいいかのヒント
- 親が認知症と診断された後、家族が「まずやるべきこと」の具体的な手順
▼ 情報元紹介
- 講演者: マシー・P・スミス (Macie P. Smith) 教授
- 経歴: 認知症ケアと高齢者福祉の専門家。ソーシャルワーカー・老年学者として25年以上活動し、教育・執筆・啓発に尽力。テレビ出演や著書も多数、介護者支援のリーダー的存在です。
- 出典元: The Truth About Cognitive Health with Dr. Macie P. Smith
「最近、同じ話が増えたかも…」そんな小さな違和感、胸の片隅に残っていませんか?

たとえば、親から1日に3度の電話が来たとき。「昨日も聞いたよ」と言いかけて言葉をぐっと飲み込む瞬間。
「最近、物忘れがひどいな」「同じものばっかり買ってくるな」。そんな変化に気づくと、頭をよぎるのは“認知症”という五文字です。考えるだけで胸がざわつき、悲しくなる。でもどう向き合えばいいのか分からないから、つい目をそらしてしまう。
とは言え、何から手をつければいいのかサッパリ…。まず何を知るべき?

「まだ大丈夫」その言葉が、実は一番危ないのかもしれません。いざ症状が進むと、生活費や見守り、安全面の準備を一気に整えるのは大変。お金の問題、安全の問題、そして何より、あなた自身の心と体の負担の問題が、津波のように押し寄せてきます。
認知症の専門家が語るリアルな知識は、あなたの漠然とした不安を、「今やるべきこと」という具体的な道筋に変えてくれるはずです。知らないふりをして、手遅れになるのが一番怖い。
- 日常で注意したいサイン
- 受診のタイミングと窓口
- 今すぐできる家計・介護準備
を順に確認していきましょう。
それ、本当に認知症?「ただの物忘れ」との決定的な違いとは?

まず、親の物忘れに気づいたら、簡単な認知症チェックをしてみましょう。一番の違いは、「忘れたことを自覚しているか」です。
- 正常な物忘れ: 「あれ、鍵どこ置いたっけ?」と思い出せなくても、自分の行動をたどれば見つかりますし、「忘れた」という自覚があります。マルチタスクを減らす、物の置き場所を決めるなど、生活の工夫で対応可能です。
- 認知症の疑いがある物忘れ:
- 昔から覚えていたはずの誕生日や住所を忘れる。
- 今朝話したばかりの予定を、何度も繰り返し忘れる。
- 理由もなく性格が変わり、イライラしやすくなる。
このように、記憶障害に加えて他の機能障害や性格の変化が伴う場合、注意が必要です。本人は無自覚なことが多いですが、実は10年以上前から認知機能の低下を隠しているケースもあるため、家族の気づきが重要になります。
親が「病院に行かない」と言い張るんですが、どうすればいいの?

これが一番の難関ですよね。認知症の兆しがある親が病院行かない問題。本人は「自分は正常だ」と思っていますから、プライドを傷つけずに受診を促すのは至難の業です。
ここで有効なのは、「認知症の診断のため」ではなく、別の目的を立てることです。
- 「最近、血圧が高いみたいだから、ついでに頭の検査もしようよ」
- 「市から健康診断のお知らせが来たから、一緒に受けに行こう」
- 「私が最近忘れっぽいから、一緒に物忘れ外来に行ってみない?」
ポイントは①“自分主体”で声をかける ②具体的な日程と楽しみをセットにする ③結果は一緒に聞いて安心を共有する。尊厳を守りながら、受診へのハードルを下げてみましょう。
もし親が認知症と診断されたら、まず「やるべきこと」は何?

もし診断が下りたら、パニックにならず、冷静に手続きを進めましょう。親が認知症になったら やるべきことは、山ほどありますが、最優先は「お金」と「意思」の確認です。
- お金の管理体制を整える:
認知症が進行すると、銀行口座の利用が制限される可能性があります。介護費用を出せなくなる前に、「家族信託」や「成年後見」など、資金管理の手段を検討しておくのが安心です。 - 法的な準備を急ぐ:
財産・医療について本人がどうしたいのか――その意思を書き残す「委任状」「事前指示書」は、家族の衝突や後悔を防ぐ大きな助けになります。 - 公的な相談窓口に繋がる:
一人で抱え込まず、まずは地域包括支援センターへ。今後の介護の流れや、使える制度を無料で整理してくれます。
→ すべてを一度にやらなくても大丈夫。“今できること”をひとつずつ、それが未来の自分を助けます。
もう無理かもしれない…「介護の負担」を軽くする方法はないの?
一人で抱え込んではいけません。むしろ、一人で抱え込むことから家族介護のデメリットは生まれます。利用できるものは、遠慮なくすべて利用しましょう。
- 公的サービスを使い倒す:
まずは地域包括支援センターに相談すること。介護保険制度の利用方法から、利用できるサービスまで、専門家が無料でアドバイスをくれます。 - プロの力を借りる:
在宅介護サービスなどを活用し、専門家の力を借りましょう。介護者が休息を取る「レスパイトケア」は、あなたの心と体を守るために不可欠です。 - オンラインコミュニティに参加する:
Facebookグループのように、介護者同士が悩みを共有し、支え合うピアサポートの場があります。同じ悩みを持つ仲間がいると知るだけで、精神的負担は大きく軽減されます。家族介護のストレスは、溜め込まずに吐き出すことが大切です。
介護は“チーム戦”。早めに声をあげて、支援メニューを組み合わせてください。
みんなの生声
関連Q&A

Q. 親の認知症が家族に与える心理的影響は何か?
A. それはもう、計り知れません。一番大きいのは「喪失感」ですね。昨日までしっかりしていた親が、だんだん別人になっていく。思い出を共有できなくなり、コミュニケーションも一方通行になる。この「親を失っていく」感覚は、非常に大きな精神的負担となります。また、終わりが見えない介護生活への絶望感や、自分の人生を犠牲にしているという罪悪感に苛まれることも少なくありません。一人で抱え込まず、カウンセリングなどの相談支援を利用することも重要ですよ。
Q. 認知症の親を介護する際に気をつけるべきポイントは何か?
A. 一番は「相手の世界を否定しない」ことです。認知症患者が見ている世界は、私たちとは違います。それを「違うでしょ!」と頭ごなしに否定すると、相手は混乱し、不安になり、問題行動に繋がります。本人の言動の裏にある感情(不安、恐怖、寂しさなど)を汲み取り、まずは共感してあげることが認知症ケアの第一歩。介護者が「正しさ」を振りかざさない。これが鉄則ですね。
Q. どのような認知症ケアが親子関係を維持するのに効果的か?
A. 「介護する側・される側」という関係性だけでなく、「親と子」としての時間を意識的に作ることです。例えば、昔のアルバムを一緒に見ながら思い出話をしたり、本人が好きだった音楽をかけたり。言葉でのコミュニケーションが難しくなっても、五感を通じた交流は可能です。大切なのは、相手を「認知症の人」としてではなく、一人の人間、そしてかけがえのない「親」として尊重し続ける姿勢です。それが、お互いの安心につながります。
まとめ
親の認知症という漠然とした不安の正体が、少しは見えてきたのではないでしょうか
あらためて、今日の話の要点をおさらいします。
- 親の物忘れは、病気のサインか否か、冷静に見極めることが第一歩である。
- 親が認知症と診断されたら、パニックにならず「お金」と「法的手続き」を最優先で進めるべき。
- 介護は一人で背負うものではない。公的サービスや専門家、コミュニティの力を借りることが、あなたと家族を守ることに繋がる。
これは、いたずらに不安を煽る話ではありません。「正しい知識で備えることで、未来は変えられる」という、希望の話です。
不安は、行動に変えると少しずつ形が見えてきます。今夜、メモ帳に「気になる出来事」を3つ書き出す。そんな小さな作業でも、明日はもう“次の確認”へと進めます。