
この記事では、米国のAARP(全米退職者協会)の専門家、エイミー・ゴイヤー氏の壮絶な体験談を基に、多くの人が直面する家族介護の実態と、お金や詐欺、孤独といった問題から自分と家族を守るための具体的な備えについて解説します。
この記事を読めば、下記3つのことがわかります。
- 専門家ですら「自己破産」に追い込まれる、介護の過酷な経済的実態
- なぜ高齢の親が詐欺に狙われやすいのか、その手口と具体的な防衛策
- 介護が始まる前に「絶対にやっておくべき」法的手続きと心の準備
▼ 情報元紹介
- 講演者: エイミー・ゴイヤー (Amy Goyer)
- 経歴: AARP(全米退職者協会)の介護専門家で、35年以上にわたり高齢者・家族支援に従事。著述家・講演者としても著名で、自身も長年家族介護を実践。著書やメディア出演を通じて介護者支援と啓発活動を行っている
- 出典元: Family Caregiving With AARP Expert Amy Goyer
親が倒れたらどうしよう…考えたくもないけど、いつかは来るんですよね?

「変わりないよ」と元気そうな声を聞いて安心する反面、ふと、頭をよぎりませんか?「もし、この電話が突然かかってこなくなったら」「もし、明日倒れたと連絡が来たら…」
「親の介護で人生終わった」なんて、ネットの掲示板で見るたびに、自分の未来なんじゃないかと心臓がヒュッとしますよね。家族介護の現状なんて、知れば知るほど不安になるだけ。特に老老介護や、子育てと介護が重なるダブルケアなんて、考えただけで気が遠くなります。
でも、目を背けていても、その日はいつかやってくる。それが現実です。そんな、漠然とした将来への不安を抱えるあなた。その気持ち、よくわかります。でも、不安だからこそ、今から知っておくことで、少しでも心の準備ができるはずです。
とは言え、まだ元気だし大丈夫。今から考える必要なんてある?

「まだ大丈夫」その言葉が、実は一番危ないのかもしれません。介護は、多くの場合、何の予告もなく突然始まります。思考停止したままその日を迎えると、待っているのは後悔と、取り返しのつかない事態です。
今回ご紹介するのは、介護の専門家でありながら、家族介護で「自己破産」に追い込まれてしまった方の実体験です。彼女の壮絶な物語は、私たちが漠然と抱いている不安が、どれほどリアルな問題であるかを突きつけてきます。
ただし、この記事は、ただ怖い話をするだけではありません。
その過酷な家族介護の実態を知った上で、「じゃあ、私たちはどうすればいいのか」という具体的な備えと希望を見つけるための、いわば「人生の防災マップ」です。知らないふりをして、手遅れになるのが一番怖い。だからこそ、今から一緒に考えていきましょう。
「介護」って、具体的にはどんなことを指すの?

まず、家族介護とは何か。多くの人は、排泄・入浴・食事といった直接的な身体介助だけを「介護」だと思いがちです。でも、それは大きな間違い。
実は、こんなことも立派な介護行為なんです。
- 安否確認の電話をかける
- 買い物や通院の付き添いをする
- 実家の庭仕事を手伝う
- 金銭管理や各種手続きを代行する
- 家族の健康状態を気にかけて見守る
これらすべてが、立派な介護行為です。ところが、こうしたサポートをしている人の多くは、自分を「介護者」と認識していません。そのため、利用できるはずの介護者支援の制度や情報を見逃してしまっているのです。
あなたが今やっている「親への気遣い」や「ちょっとした手伝い」。それも、もう立派な介護の第一歩かもしれませんよ。
専門家でも「自己破産」?介護のお金って、そこまで大変なことになるの?

これが、今回の話の核心です。ゴイヤー氏は、介護の専門家でありながら、両親の介護で自己破産を経験しました。
彼女は20代から祖父母の介護を始め、その後、脳卒中の母とアルツハイマー病の父の同時介護を長年続けました。仕事と両立しながら、離れた場所からのサポート、複数の家の管理、そして予想をはるかに超える医療費。想定外の経済的負担が積み重なり、最終的に破産という選択をせざるを得なくなったのです。
彼女は後にこう振り返っています。「完璧な介護者はいない。専門家の私でさえ、金銭面で助けを求めるという判断を間違えた」これは、家族介護の現実をリアルに物語っています。親を想う気持ちだけでは、どうにもならない現実があるのです。
「まさか、ウチの親に限って…」そう思いたくなる、高齢者の詐欺被害

経済的負担と並んで深刻なのが、親が詐欺のターゲットになるリスクです。AARPの調査によると、家族介護者の5人に1人が、親の詐欺被害を経験しているという驚くべき現実があります。
なぜ高齢者は狙われるのか。詐欺師は、高齢者の「良心」や「孤独感」を巧妙に利用します。「障害のある退役軍人を助けたい」「お孫さんがトラブルに巻き込まれた」といった感情に訴えるストーリーで同情を誘い、冷静な判断力を奪うのです。
ゴイヤー氏の父親も、退役軍人を名乗る詐欺師に長年お金を送り続けていました。彼女が気づいた時には、既に相当な被害が発生していたのです。
さらに問題なのは、高齢者の心理です。「自立を失いたくない」「家族に迷惑をかけたくない」という思いから、被害に遭っても事実を隠しがちになります。この隠蔽が、被害をさらに深刻化させる悪循環を生み出しているのです。
じゃあ、介護が始まる前に「絶対に」やっておくべきことって何?

ゴイヤー氏は、介護という大きな変化が訪れる前に、絶対に準備しておくべきことが2つあると強調します。
- 法的な準備を済ませる:
親が元気で、正常な判断能力があるうちに、必ず「任意後見契約」と「尊厳死宣言書」「財産目録の作成」を作成しておくこと。認知症などで判断能力が低下した時に、財産管理や契約行為を代理で行うために不可欠です。これらの準備がないと、いざという時に家族は法的に何もできず、必要な手続きが進められなくなってしまいます。 - お金の話をオープンにする:
非常にデリケートな問題ですが、親の資産状況、保険の加入状況、そして将来の介護サービス利用に関する希望を、親子でオープンに話し合っておくことが大切です。「お金の話なんて…」と躊躇する気持ちもわかりますが、これは家族内のトラブルを避けるためにも極めて重要なのです。同時に、自分自身のライフプランも見直してみましょう。必要であれば、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することも検討してください。親との話し合いは一度で済むものではありません。時間をかけて、お互いが納得できる形で進めていくことが大切です。
もう無理かもしれない…「介護の負担」を軽くする方法はないんですか?

一人で抱え込む必要は全くありません。むしろ、一人で抱え込むことから家族介護の様々な問題は生まれます。利用できるものは、遠慮なくすべて利用しましょう。
- 公的サービスを使い倒す:
まずは地域の地域包括支援センターに相談することから始めましょう。ここは、介護に関するあらゆる相談に乗ってくれる最初の窓口です。介護保険制度の利用方法から、利用できるサービスまで、専門家が無料でアドバイスをくれます。 - 職場の制度を確認する:
勤務先に介護休業制度や時短勤務制度がないか確認しましょう。介護離職は、あなたの人生設計を大きく狂わせる最悪の選択肢の一つです。 - オンラインコミュニティに参加する:
AARPのFacebookグループのように、介護者同士が悩みを共有し、支え合うピアサポートの場があります。同じ悩みを持つ仲間がいると知るだけで、精神的負担は大きく軽減されます。 - 具体的なサポートを頼む:
友人や親戚に「何かあったら言ってね」と言われても、介護者は頼みづらいものです。「毎週火曜の夜、夕食を届けるよ」「次の通院、車出すよ」といった具体的な申し出が、何よりの助けになります。
みんなの生声
関連Q&A

Q. 家族介護の負担を軽くした具体的な事例ってある?
A. 家族介護の負担、本当に重く感じますよね。一人で抱え込んでしまいがちですが、実は工夫次第で負担を軽くできた実例がたくさんあります。例えば、遠方に住む兄弟がSkypeで毎日お母様の話し相手になり、近くに住む姉妹が通院や買い物を担当するという役割分担で乗り切りました。また、別のご家庭では、地域の介護サービスを積極的に利用し、ショートステイなどを活用して介護者が休息を取る「レスパイトケア」の時間を定期的に確保。介護者の健康を守り、結果的に在宅介護を長く続けられたという事例があります。
Q. 介護保険制度って、実際どこまで頼りになるの?
A. 介護保険への不安、よく分かります。「本当に助けてもらえるのか」心配になりますよね。正直、介護保険だけですべてを賄うのは難しいのが現状です。特に、経済的支援には限界があります。しかし、訪問介護やデイサービス、福祉用具のレンタルなど、介護負担を軽減するためのサービスを比較的安価に利用できるという大きなメリットがあります。制度の仕組みは複雑ですが、ケアマネージャーや地域包括支援センターの専門家が個別支援計画を立ててくれます。「何から始めたらいいか分からない」という方こそ、まずは相談してみてください。
Q. 高齢者ケアでICT(情報通信技術)って、どう活用できるの?
A. 最近の技術は驚くほどシンプルで使いやすくなっているんです。例えば、ベッドの下に置くだけで睡眠や心拍をモニタリングできるセンサーや、薬の飲み忘れを防ぐために時間になると光って教えてくれる薬箱などがあります。また、タブレット端末も、最初は「難しそう」と感じるかもしれませんが、実際は画面をタッチするだけでオンライン診療を受けたり、遠くの家族と顔を見ながら話したりできます。多くの方が「思ったより簡単だった」と話されています。こうした技術の活用は、見守りの負担を減らし、ご本人の自立を助け、介護する方・される方双方の生活の質を向上させる大きな可能性を秘めています。
まとめ
「家族介護の実態」という漠然とした不安の正体が、少しは見えてきたのではないでしょうか。
あらためて、今日の話の要点をおさらいします。
- 介護は誰にでも起こる普遍的な問題であり、お金や詐欺といったリアルなリスクが伴う。
- 専門家ですら経済的に破綻する可能性があるため、一人で抱え込まず、早期に専門家(特に金銭面)に相談することが不可欠。
- 介護が始まる前に「法的な準備」と「お金の話」を済ませておくことが、将来のトラブルを防ぐ最大の防御策である。
これは、いたずらに不安を煽る話ではありません。「正しい知識で備えることで、未来は変えられる」という、希望の話です。
怖がっていて良いのです。怖いものは怖い。でも、知らないふりだけはしないように。怖がりながらでも良い、今日できることから一歩でも前に進んだ人が、結局一番しぶとく、そして穏やかにその日を迎えられるのです。人生とは、そういうものでしょう。