このニュースは、米シアトルの長寿研究スタートアップ『Circulate Health』が、1回8,000ドル(約120万円)以上する高額な「血液クレンジング」サービスのために、1,200万ドル(約18億円)の資金を調達したと海外メディアが報じたものです。体の中の血液を入れ替えて若返るやなんて、SF映画みたいな話やな。しかも1回100万円以上て。そんな大金払うてまで、わてらは何を求めとるんやろか?
このニュースの要点は、下記3つです。
- 『Circulate Health』社が、老化防止目的の「血漿交換」サービスのために1,200万ドル(約18億円)の資金調達を発表した。
- このサービスは1回8,000〜10,000ドルと高額で、老化抑制効果は科学的に未証明であり、保険適用外である。
- 同社が実施した小規模な研究では、生物学的年齢が平均2.61歳若返る結果が出たが、専門家からはその有効性を疑問視する声も上がっている。
目次
シアトル発「血液チューンナップ」ビジネス
2025年7月1日、米シアトルに拠点を置く長寿研究スタートアップ『Circulate Health(サーキュレート・ヘルス)』社が、シードラウンドで1200万ドルの資金調達を完了したと発表しました。
同社が提供するのは、治療的血漿交換という技術を用いた、いわば「循環器系のチューンナップ」サービスです。専用の機械を使い、患者の血液を一度体外に取り出し、液体成分である「血漿」を分離。血球だけをアルブミンという代替タンパク質溶液と共に体内に戻します。
このプロセスの目的は、加齢とともに血中に蓄積する炎症性因子や老化関連物質を取り除くこと。同社の共同創業者兼CEOであるブラッド・ヤンググレン博士は、これを「的を絞った血液の浄化」と表現しています。
しかし、このサービスは手軽なものではありません。1回の施術にかかる費用は約8,000ドルから10,000ドル(約120万円〜150万円)。老化防止や健康増進を目的とした利用は、公的医療保険の対象外です。
その科学的根拠と、専門家が指摘する「限界」
このサービスの科学的根拠となっているのが、著名な老化研究機関であるバック研究所との共同研究です。2025年5月に学術誌『Aging Cell』に掲載されたこの研究では、平均年齢約67歳の成人42人を対象に実験が行われました。
その結果、血漿交換に抗体の一種を加えたグループでは、細胞内の様々な老化マーカーから算出される「生物学的年齢」が、平均で2.61歳若返ったと報告されています。ヤンググレンCEOは「細胞の若返りと一致する多くの期待通りの結果が見られた」と語ります。
しかし、この有望に見える結果には、大きな注意点が存在します。
医学専門家たちは、ニューヨーク・タイムズ紙の記事などで、この研究の意義に疑問を呈しています。
- 研究規模の小ささ: 対象者が42人と非常に少なく、結果を一般化するには不十分。
- 短期的な効果: 2〜5ヶ月間の追跡調査しか行っておらず、効果が持続するかは不明。実際に、研究後半の血液サンプルでは改善効果が薄れる傾向が見られた。
- 体感の変化は未測定: 患者がどう感じたか、認知機能が改善したかといった臨床的な変化は測定されていない。
米メイヨー・クリニックのジェフリー・ウィンターズ博士は、「(長寿への利益を証明する)証拠は全くない」と、その効果を明確に否定しています。
比較して見えてくるポイント
このニュース、他の出来事と比べてみると、さらに深い意味が見えてきます。老化へのアプローチを、サム・アルトマン氏が出資する「AI創薬」と比較してみましょう。
介入方法
| Circulate Health(物理的アプローチ) | AI創薬(情報的アプローチ) |
| 血漿交換という物理的な「ろ過」によって、血中の老化因子を直接除去する。体の外から行う機械的なアプローチ。 | 細胞の老化メカニズムをAIで解析し、それを制御する薬を設計・開発する。体の内側から行う情報的なアプローチ。 |
ターゲット
| Circulate Health(物理的アプローチ) | AI創薬(情報的アプローチ) |
| 血中に存在する炎症性因子など、全身に影響を与えるマクロな要因。「血液」というシステム全体を対象とする。 | 特定の細胞や遺伝子、タンパク質の働きなど、ミクロな要因。「オートファジー」など特定の生命現象を対象とする。 |
普及の課題
| Circulate Health(物理的アプローチ) | AI創薬(情報的アプローチ) |
| 1回100万円超と非常に高額。専門の機器と看護師が必要で、提供場所が限られるため、富裕層向けのサービスになりやすい。 | 薬として量産できれば、理論上は多くの人が利用可能。ただし、開発コストが高いため、薬価が高額になる可能性がある。 |
このように比較すると、長寿研究には物理的に「悪いものを取り除く」発想と、情報的に「システムを書き換える」発想があることがわかります。どちらも高額ですが、その性質と普及の形は大きく異なります。
現在、このサービスは米国内の富裕層向けクリニックで提供されているものであり、日本の私たちに直接の関係はまだありません。しかし、このニュースは、世界の長寿医療が向かう一つの未来を象徴しています。
それは、「病気の治療」ではなく「老化の予防・改善」を目的とした、自由診療の高額医療サービスの拡大です。
数年後、日本の人間ドックやアンチエイジングクリニックのメニューに、「1回100万円の血漿交換オプション」が加わる可能性はゼロではありません。その時、私たちはそれを選ぶのでしょうか。選べる人と選べない人の間で、新たな「健康格差」が生まれるのかもしれません。
この動きは、老化とどう向き合うか、どこまで医療の介入を許容するかという、私たち一人ひとりへの問いかけでもあるのです。
つまり、「細胞レベルでは若返ったかもしれないが、それが本当に健康で幸せな長生きに繋がるかは、全く証明されていない」のです。この点については、ニューヨーク・タイムズの記事でも、多くの外部の医療専門家が「意義に乏しい」「長寿への利益の証拠は全くない」と、厳しい指摘をしています。
重要キーワード
治療的血漿交換
特定の疾患治療のために確立された医療技術。血液を体外に引き出し、遠心分離機で血球と血漿に分離後、血漿を廃棄し、血球をアルブミンなどの代替液と共に体内に戻します。多発性硬化症や重症筋無力症などの自己免疫疾患、特定の血液疾患の治療に用いられます。この記事では、この確立された技術を「老化防止」という新しい目的(適応外使用)に応用するビジネスとして紹介されています。
生物学的年齢
暦の上の年齢(実年齢)とは異なり、細胞や組織の老化度合いを様々な生体マーカー(バイオマーカー)に基づいて推定した年齢。DNAのメチル化などが代表的な指標です。長寿研究の世界では、治療介入の効果を測るための重要な指標と見なされています。この記事の研究では、血漿交換によってこの生物学的年齢が平均2.61歳低下したことが、サービスの有効性を主張する根拠として用いられています。
みんなの生声
まとめ
あらためて、このニュースの要点をおさらいします。
- 『Circulate Health』社が、老化防止目的の「血漿交換」サービスのために1,200万ドル(約18億円)の資金調達を発表した。
- このサービスは1回8,000〜10,000ドルと高額で、老化抑制効果は科学的に未証明であり、保険適用外である。
- 同社が実施した小規模な研究では、生物学的年齢が平均2.61歳若返る結果が出たが、専門家からはその有効性を疑問視する声も上がっている。
あなたに問う
いやはや、今度は血液をお掃除して若返るっちゅうサービスが出てきたらしいで。車のオイル交換みたいなもんやろか。古うなったオイルを抜いて、新しいのを入れたらエンジンが長持ちするっちゅう理屈やな。
せやけど、わてらの体は精密な機械のようで、そう単純やないで。そんな簡単に入れ替えて、ほんまにええことばっかりかいな。そのうち『心のデトックスサービス』とか言うて、嫌な思い出だけきれいに洗い流してくれるサービスが出てくるかもしれへんで。それはそれで、ちょっと怖い話やな。
まあ、大金持ちのやることは置いといて、わてらはまず、血液をドロドロにせんように、台所の玉ねぎでもようけ食べとくのが一番の近道やろな。あんたはどない思う?
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