
この記事では、長寿医学の専門家と形成外科医と皮膚科医の対談をもとに、SNSが作り出す歪んだ美の基準と、そこに潜む美容医療の危険性について解説します。
この記事を読めば、下記3つのことがわかります。
- なぜSNSで流行りの美容医療が、プロの医師から見て危険なのか
- フィラーの過剰注入や流行りの手術が招く、10年後の悲劇的な後悔
- 美容医療のトラブルを避け、賢く自分と向き合うための具体的な方法
▼ 情報元紹介
- 講演者: ピーター・アッティア(Peter Attia)教授、タヌジ・ナクラ(Tanuj Nakra)博士、スーザン・オバジ(Suzan Obagi)博士
- 経歴: ピーター・アッティア/スタンフォード大学医学部卒の医師・作家。長寿医学の専門家|タヌジ・ナクラ博士/アメリカ・テキサス州オースティンを拠点とする顔面および眼の整形外科(眼形成外科)の専門医|スーザン・オバジ博士/米国ピッツバーグ大准教授の皮膚科・美容外科医で、世界的なスキンケア専門家
- 出典元: ソーシャル メディアが美の基準に与える影響 | Tanuj Nakra 医学博士 & Suzan Obagi 医学博士
「みんなやってるから」…その一言が、後悔への入り口かもしれませんよ?

「最近、なんだか顔が疲れて見える」「もう少し、ここがこうだったらな…」。鏡を見てため息をつく、そんな毎日。SNSを開けば、完璧な顔立ちのインフルエンサーたちが、いとも簡単に「キレイ」を手に入れているように見えます。「〇〇ちゃんがやってたから、私もやってみようかな」。その軽い気持ち、非常によくわかります。
ですが、その一歩、本当に踏み出して大丈夫ですか?「みんなやってるから」という安心感は、時に最も危険な落とし穴になります。あなたが憧れているその顔は、高度なフィルター加工と、奇跡的なカメラアングルによって生み出された“幻想”かもしれません。そして、その幻想を追い求めた先には、美容医療の失敗という、取り返しのつかない現実が待っている可能性があるのです。
あなたが今まさにクリックしようとしているそのクリニックの予約ボタン。押す前に少しだけ、立ち止まってこの記事を読んでみてください。あなたの顔と、大切なお金と、そしてこれからの人生を守るための、重要な話ですから。
なぜ、スマホの中の“理想の顔”を追いかけてはいけないの?

「でも、キレイになりたいと思うのは、悪いことじゃないですよね?」もちろん、その通りです。向上心は素晴らしい。問題なのは、その「キレイ」の基準が、いつの間にか自分のものではなく、SNSによって作られた、非現実的で画一的なものにすり替わっていることです。
考えてみてください。25年前、まだSNSがなかった時代、人々はテレビや雑誌から、今の何百分の一かの情報を受け取って、自分なりの美しさを模索していました。しかし今はどうでしょう。インフルエンサーという、ある種の影響力のプロたちが、フィルターで加工された非現実的な写真を24時間365日、あなたの脳に直接送り込んでくるのです。
彼らは、ウエストを細くし、唇を厚くし、完璧なシンメトリーの顔を作り出して見せます。そして、それが新しい「美の基準」であるかのように振る舞う。恐ろしいのは、12歳、13歳といった若い世代が、この歪んだ基準を「当たり前」だと刷り込まれ、「自分もこうならなければいけない」という強烈なプレッシャーを感じていることです。これはもはや、同調圧力(ピアプレッシャー)ならぬ「美の圧力(ビューティー・プレッシャー)」ですよ。若い世代だけではありません。40代、50代もSNSを見て「自分だけ老けているのでは」と焦りを感じる人が増えているのです。
そして、最も残酷な事実。インフルエンサーたちは、流行が終われば、有り余るお金で簡単にその顔を「修正」できます。しかし、その流行を真似したあなたは?彼らと同じように、何度も手術を繰り返す経済的余裕がありますか?そのリスクを、本当に理解していますか?
医者が本気で警鐘を鳴らす!SNS発“危険な美容医療”トレンドとは?

では、具体的に、プロの医師たちはどのようなトレンドに美容医療の危険性を感じているのでしょうか。ここでは、特に問題視されている2つの「流行病」について解説します。
トレンド1:フィラーの過剰注入という「顔面破壊」
今、クリニックには「唇をふっくらさせたい」「頬を高くしたい」と、フィラー(ヒアルロン酸などの注入剤)を求める患者が殺到しています。手軽で、メスを使わない自由診療であることから、「プチ整形」なんて呼ばれて安易に考えられがちですが、医師たちはここに大きなリスクが潜んでいると警告します。
- 問題点①:見た目の不自然さ
SNS上の加工された顔を基準にすると、注入量は必然的に過剰になります。その結果生まれるのは、誇張され、歪んだ、誰が見ても「何かおかしい」と感じる不自然な顔です。 - 問題点②:数年後も残る“体内の時限爆弾”
「フィラーは1年で吸収される」なんていう誇大広告を信じていませんか?それは真っ赤な嘘です。医師が手術で顔の内部を見ると、8年前、10年前のフィラーが、変質せずにそのまま残っているケースはザラにあります。副作用として、この古いフィラーが合併症(感染症や肉芽腫など)の原因になることも。 - 問題点③:正常な組織の破壊
過剰に注入されたフィラーは、顔の靭帯を伸ばし、正常な組織構造を破壊します。これが、将来あなたが本当に必要な外科手術(たるみ取りなど)を受ける際、手術そのものを非常に困難にするのです。目先の美しさのために、未来の選択肢を自ら潰しているようなものです。
トレンド2:「スナッチドルック」が招く“修正不能”の悲劇
もう一つ、医師たちが懸念しているのが「スナッチドルック(Snatched Look)」と呼ばれる、眉尻を極端に吊り上げる手術です。これもまた、SNSの加工文化が生んだ非現実的なトレンドです。
- 問題点①:流行は、必ず終わる
ファッションと同じで、顔のトレンドも必ず移り変わります。今「イケてる」とされるその眉の形が、5年後には「あの頃の流行り(笑)」と嘲笑の的になる可能性は高い。その時、あなたはどうしますか? - 問題点②:元には戻れない
フィラーと違い、外科手術による変形は、元に戻すのが極めて困難です。修正手術にはさらなる費用とリスクが伴い、ダウンタイムも必要です。最悪の場合、修正不能な傷跡が残るという健康被害も。 - 問題点③:経済的負担
インフルエンサーは、次の流行に合わせて何度も手術を受けられるかもしれません。しかし、一般の人がそのトレンドを追い続けるのは、経済的に不可能です。高額な施術費用を払って後悔する、そんな美容医療 トラブルが後を絶ちません。
私たちは“後悔しないため”に、何をすればいいのですか?

ここまで読んで、「もう美容医療なんてやらないほうがいいのか…」と、絶望的な気分になっているかもしれません。いいえ、そういうわけではありません。問題なのは、美容医療そのものではなく、「情報に踊らされ、自分の頭で考えずに安易に飛びつく」その姿勢です。
美容医療で後悔しない、賢い選択をするために、私たちにできることは何でしょうか。
- 1. 流行ではなく、「自分の価値観」を育てる
他人の「いいね」の数で、自分の価値を決めないでください。あなたには、あなただけの魅力があります。SNSから少し距離を置き、本当に自分がどうなりたいのか、どんな自分なら幸せなのかを、じっくり考えてみること。時には、専門家のカウンセリングやコーチングを受けて、自己肯定感を育むのも非常に有効な手段です。外見だけでなく、新しい資格の勉強を始めたり、オンライン講座で知識を深めたりと、内面を磨くことこそが、揺るぎない自信に繋がります。 - 2. 信頼できる「パートナー」としての医師を見つける
「安いから」「有名だから」でクリニックを選んでいませんか?それはギャンブルと同じです。重要なのは、あなたの人生に寄り添ってくれる、信頼できる医師を見つけること。そのためには、施術前のカウンセリングに十分な時間をかけ、リスク説明を丁寧にしてくれるか、あなたの話を真剣に聞いてくれるか、といった点を見極める必要があります。オンライン診療などを活用して、複数の医師の意見を聞いてみるのも良いでしょう。 - 3. 長期的な視点で「人生の資産」を考える
目先のコンプレックスを解消するために何十万円も払う前に、少し立ち止まってみてください。そのお金は、あなたの10年後、20年後の人生にとって、本当に最適な使い方でしょうか。例えば、将来の病気に備えて保険を見直したり、老後の資金のためにNISA口座で資産運用を始めたり、資産管理アプリで家計を把握したり。あなたの人生を長期的に守ってくれる「資産」について考えることも、賢い大人の選択です。
みんなの生声
関連Q&A

Q. 美容医療の合併症や後遺症の具体的なリスクは何か?
A. 夢を壊すようで心苦しいですが、知っておいてください。「プチ整形」なんて軽い言葉で呼ばれていても、やっていることは医療行為です。例えば、ヒアルロン酸注入一つとっても、注入箇所を間違えれば血管が詰まって皮膚が壊死したり、最悪の場合、失明に至るリスクもあります。糸リフトで神経を傷つけて顔に麻痺が残る、なんていう後遺症も。軽い気持ちで受けたレーザーで火傷を負ったり、感染症を起こしたり。これらは、決して大げさな話ではなく、実際に起きている健康被害です。「自分だけは大丈夫」という、根拠のない自信は禁物です。
Q. どの施術に最も多くのトラブル事例が報告されているか?
A. これはもう、流行り廃りと連動します。国民生活センターなどの美容医療相談室に寄せられるトラブル事例で常に上位にいるのは、やはり手軽さから人気の「ヒアルロン酸注入」や「二重まぶたの埋没法」です。手軽ということは、参入する医師も多く、中には経験の浅い医師もいるということ。結果、美容医療のトラブルが増えるわけです。最近では、HIFU(ハイフ)による火傷や神経損傷の相談も増えています。結局、「みんながやっているから安全」なのではなく、「みんながやっているからこそ、玉石混交で危険が潜んでいる」と考えるのが、賢い大人の自己防衛です。
Q. 美容医療を受ける前に確認すべき安全性チェックリストは何か?
A. まず、カウンセリングであなたの話を急かさず、時間をかけて聞いてくれるか。そして、施術のメリットだけでなく、副作用や合併症のリスク説明を、あなたが「もう結構です」と言うくらい、しつこく丁寧にしてくれるか。次に、担当する医師の経歴や症例写真がきちんと公開されているか。さらに、料金体系が明確で、追加費用などに関する説明責任が果たされているか。このあたりをないがしろにするクリニックは、あなたのことを「お客様」ではなく「カモ」だと思っているかもしれません。
まとめ
さて、今回はSNSの流行がもたらす「美容医療の危険性」について、専門家の視点から解説してきました。
- SNSが作り出す「美の基準」は、非現実的で画一的であり、多くの若者に不必要なプレッシャーを与えている。
- フィラーの過剰注入や流行りの手術は、長期的に見て、あなたの顔と人生に深刻なダメージを与えるリスクがある。
- 情報に踊らされず、自分の価値観を持ち、信頼できる医師と長期的な視点で向き合うことが、後悔しないための唯一の方法である。
結局のところ、あなたの顔の責任を取れるのは、インフルエンサーでも、流行を作った誰かでもなく、あなた自身だけなのです。
流行りの顔より、あなたの笑顔の方がよっぽど素敵ですよ。そのことを、絶対に忘れないでくださいね。