このニュースは、2025年10月29日、米『ロチェスター大学』の研究チームが、200歳まで生きるホッキョククジラの驚異的な長寿とがん耐性の秘密が、「CIRBP」という特殊なタンパク質の強力なDNA修復能力にあることを発見したと海外で報じたものです。クジラの秘密が、わしらの老化防止のヒントになるかもしれへんて。まさか、長生きの秘訣が冷水シャワーにあるなんて話、誰が想像したやろか?
このニュースの要点は、下記3つです。
- 200歳まで生きるホッキョククジラは、CIRBP(Cold-inducible RNA-binding protein:低温誘導RNA結合タンパク質)というDNA修復タンパク質を他の哺乳類の100倍も多く持っていた。
- このクジラのCIRBPを人間の細胞やハエに導入したところ、DNA修復能力が向上し、ハエの寿命は延長した。
- CIRBPは低温によって産生が促されるため、「寒冷刺激」が長寿の鍵となる可能性が示唆された。
出典元: Bowhead whales’ secret to long life may lie in a protein(University of Rochester, 2025年10月29日)
目次
巨大クジラが解く「がんのパラドックス」
体が大きく寿命が長い動物ほど、細胞分裂の回数が多くなるため、がんになるリスクは高くなるはずです。しかし、クジラやゾウのような巨大な生物が、人間よりもがんになりにくいという謎は「ピートのパラドックス」として知られていました。
この謎を解明するため、『ロチェスター大学』のヴェラ・ゴルブノヴァ(Vera Gorbunova)教授らの研究チームは、哺乳類で最も長寿とされるホッキョククジラに着目しました。
私たちの体は、呼吸しているだけでも1日に数万回もDNAが傷ついていると言われます。若い頃はこの傷を直す「修復工場」がフル稼働していますが、年齢とともにその力は衰え、修復ミスが増えていきます。この修復ミスが積み重なった結果が「老化」であり、致命的なエラーが起きたものが「がん」なのです。
学術誌『Nature』に発表されたこの研究で、チームはホッキョククジラの細胞を分析。その結果、がんや老化の原因となる遺伝子損傷「DNA二本鎖切断」を修復する能力が、他の哺乳類に比べて非常に高いことを発見しました。
その中心的な役割を担っていたのが、CIRBP(低温誘導RNA結合タンパク質)というタンパク質でした。ホッキョククジラは、この修復工場の従業員(CIRBP)を人間の100倍も雇っているような状態だったのです。ヴェラ・ゴルブノヴァ教授もこう語っています。
他のタンパク質もホッキョククジラでわずかに高いレベルで発現していましたが、CIRBPは100倍という高いレベルで存在していたため、際立っていました。
クジラのタンパク質が、ハエの寿命を延ばした
研究チームは、この発見をさらに検証するため、ホッキョククジラのCIRBPを人間の培養細胞とショウジョウバエに導入する実験を行いました。
その結果、人間の細胞ではDNA修復能力が向上。そして、ショウジョウバエでは、なんと寿命が延長するという驚くべき結果が得られたのです。
これは、CIRBPが種を超えて「老化を遅らせる」効果を持つ可能性を示唆する、画期的な発見です。
この海外の研究は、日本の私たちにどう関係するのか?
この研究は、単にクジラの生態を解明しただけではありません。私たちの「健康な長寿」を実現するための、全く新しいアプローチの可能性を示しています。
研究チームは、人間でCIRBPを増やす方法として、将来的にはタンパク質そのものを薬剤として投与することなどを検討しています。しかし、もっと身近な方法も示唆されています。
実は、このCIRBPというタンパク質は、アラスカの科学者との共同研究で、体を数度冷やすだけで産生が促されることが分かっているのです。
ゴルブノヴァ教授は、ライフスタイルの変化の可能性について次のように言及しています。
冷水シャワーを浴びるといったライフスタイルの変化も、(CIRBPの増加に)貢献するかもしれませんし、探求する価値があるでしょう。
もちろん、これはまだ仮説の段階です。しかし、将来、私たちが健康診断で「CIRBP値」を測定し、医師から「最近、サウナの後の水風呂、サボっていませんか?」と指導されるような日が来るかもしれません。
比較して見えてくるポイント
このニュース、他の出来事と比べてみると、さらに深い意味が見えてきます。老化へのアプローチを、NMNなどの「サプリメント」と比較してみましょう。
アプローチ
| CIRBP(内在性タンパク質) | NMNなど(外因性サプリメント) |
| 体が本来持っているDNA修復システムそのものを強化する。根本的な「防御力」を高めるアプローチ。 | 細胞のエネルギー代謝に必要な補酵素(NAD+)の前駆体を外部から補給する。「燃料」を補給するアプローチ。 |
活性化の方法
| CIRBP(内在性タンパク質) | NMNなど(外因性サプリメント) |
| 冷水シャワーのような「寒冷刺激」という、コストのかからない物理的な刺激で体内の産生を促せる可能性が示唆されている。 | 主に経口摂取による。製品の品質や吸収効率、価格が課題となることが多い。 |
科学的根拠
| CIRBP(内在性タンパク質) | NMNなど(外因性サプリメント) |
| ホッキョククジラという200年生きた実績を持つ生物の仕組みを解明。種を超えた効果も実験で示唆されている。 | 主にマウスなどの実験動物での研究が中心。ヒトでの明確な寿命延長効果は、まだ科学的コンセンサスが得られていない。 |
このように比較すると、CIRBPは「体に元々備わっている力を引き出す」という、より自然で根源的なアプローチであることがわかります。サプリメントに頼るだけでなく、自身の体の応答性を高めるという新しい健康観に繋がる可能性があります。
重要キーワード
「CIRBP(Cold-inducible RNA-binding protein)」とは?
日本語では「低温誘導RNA結合タンパク質」と呼ばれます。その名の通り、体が低温にさらされると細胞内で増加するタンパク質の一種です。元々は冬眠する動物などで研究されていましたが、この記事では、ホッキョククジラの細胞内に非常に高い濃度で存在し、強力なDNA修復能力を発揮することで、長寿とがん耐性に貢献している可能性が示されました。
「DNA二本鎖切断」とは?
DNAを構成する二本の鎖が両方とも切断されてしまう、最も重篤な遺伝子損傷の一つです。これが適切に修復されないと、細胞のがん化や老化の原因となります。ホッキョククジラは、CIRBPの働きによってこの危険な損傷を効率的に修復する能力が非常に高いと考えられており、この記事では老化を食い止めるための重要な防御メカニズムとして紹介されています。
「ピートのパラドックス」とは?
体が大きく寿命が長い動物ほど、細胞の数が多く分裂回数も増えるため、確率的にはがんになりやすいはずです。しかし、実際にはクジラやゾウのような大型動物のがん罹患率は、人間などの小型動物と比べて高くありません。この理論と観察の間の矛盾を指す言葉です。この記事の研究は、ホッキョククジラが強力なDNA修復能力を持つことで、このパラドックスを解決している可能性を示唆しています。
みんなの生声
まとめ
あらためて、このニュースの要点をおさらいします。
- 200歳まで生きるホッキョククジラは、「CIRBP」というDNA修復タンパク質を他の哺乳類の100倍も多く持っていた。
- このクジラのCIRBPを人間の細胞やハエに導入したところ、DNA修復能力が向上し、ハエの寿命は延長した。
- CIRBPは低温によって産生が促されるため、「寒冷刺激」が長寿の鍵となる可能性が示唆された。
あなたに問う
いやはや、200年も生きるクジラの長寿の秘訣は、冷たい水が好きやったからかもしれへん、てな話やで。わてらの体も、ちょっと寒いくらいの方が、シャキッとして若さを保つ機能が働くようにできてるんやろか。
よう考えたら、昔の家は冬は寒かったし、風呂かて毎日入れるわけやなかった。便利で快適な暮らしを手に入れた代わりに、わてらは体に備わってた大事なスイッチを、いつの間にかオフにしてしもたんかもしれへんな。
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