
この記事では、老化免疫学の世界的権威クラウディオ・フランチェスキ教授の講演を元に、その不調の根本原因かもしれない「インフラメイジング(老化と炎症の関係性)」の正体と、その対策法を解説します。
この記事を読めば、下記3つのことがわかります。
- 老化の根本原因とされる「炎症老化(インフラメイジング)」の正体
- 100歳まで元気な人の体内で起きている驚きの事実
- 今日から実践できる、科学に基づいた慢性炎症の治し方・予防法
▼ 情報元紹介
- 講演者: クラウディオ・フランチェスキ(Claudio Franceschi)教授
- 経歴: ボローニャ大学名誉教授。老化に伴う免疫系の変化と炎症の関係性を「Inflammaging(インフラメイジング)」と名付けた、老化免疫学の世界的権威。100歳以上の健康長寿者(センテナリアン)研究の第一人者でもある
- 出典元: Active Ageing 2019 | CLAUDIO FRANCESCHI
その原因不明の不調、実は体内の“見えない火事”のせいかもしれませんよ?

「なんだか最近、身体が重い」「スキンケアを頑張っても、炎症老化による肌のくすみが改善しない」。年齢を重ねるにつれて増えていく、原因不明の不調の数々。健康診断の数値はギリギリセーフでも、決して絶好調とは言えない。そんな毎日を送っていませんか?
多くの人は、その正体不明の不調を「まあ、もう若くないし」という魔法の言葉で無理やり納得させ、見て見ぬフリをしています。しかし、心の中では「このままどんどん老けて、病気がちになっていくのだろうか」という漠然とした恐怖が渦巻いている。そんなこと、お見通しですよ。
実は、その不調の裏側では、あなたの体内で「慢性的なボヤ騒ぎ」、つまり慢性炎症が起きているのかもしれません。自覚症状がないからと放置していると、その小さな火種がやがて大火事になり、美容から健康まで、あなたの輝きを根こそぎ奪っていく可能性があるのです。
“炎症老化”という言葉、あなたはもうご存知ですか?

「炎症って、ケガしたときに赤く腫れるアレでしょ?」と思ったあなた。正解ですが、少し足りません。問題なのは、そんな分かりやすい急性的な炎症ではなく、自覚症状のないまま静かに、そしてジワジワと全身を蝕んでいく「慢性的で低レベルな炎症」です。
フランチェスキ教授は、この加齢に伴う静かな炎症を「Inflammaging(インフラメイジング)」と名付けました。日本語では「炎症老化」と訳されます。このインフラメイジングこそが、シワやシミといった肌老化から、動脈硬化、糖尿病、がん、アルツハイマー病といった深刻な病気にまで関わる、まさに「万病のもと」だと考えられています。
この話、もはや他人事ではありません。あなたの10年後、20年後の健康と美容を左右する、知らないと絶対に損する話です。ここからは、その「炎症老化」の正体と、最新科学が見つけた対策のヒントを、一緒に覗いていきましょう。
体内の“火事”の原因は、なんと“自分自身のゴミ”だった!?

衝撃の事実!「老化」は衰退ではなく、“必死の立て直し”だった
まず、あなたの「老化」に対するイメージをアップデートしましょう。老化は、単に機能が衰えていく一方通行のプロセスではありません。フランチェスキ教授によれば、老化とは「生涯を通じて、体内で起こる様々なダメージに必死で適応し、体を立て直そうとし続ける『リモデリング』のプロセス」なのです。
しかし、この立て直し作業は完璧ではありません。ランダムかつ非直線的に進むため、人によって老化の進み方や現れ方に大きな個人差が生まれます。最新の研究では、人生において34歳、60歳、78歳頃に、体内のタンパク質が大きく変化する“老化の転換点”があることも示唆されており、老化が決して滑らかなプロセスではないことを裏付けています。
“火事”の原因は外敵じゃない!犯人は「自分自身のゴミ」
では、なぜこのリモデリングの過程で、やっかいな慢性炎症が起きてしまうのでしょうか。若い頃の炎症は、ウイルスや細菌といった外敵から体を守るための有益な防御反応です。しかし、加齢とともに続く慢性炎症は、なんと自分自身の細胞から出る「分子のゴミ」が主な原因だったのです。
例えば、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリア機能障害が起きると、本来は内部に留まるべきミトコンドリアDNAが血中に漏れ出します。すると、私たちの免疫システムは、この“家出した”DNAを、細菌のDNAと勘違いして攻撃を開始。この勘違いによる攻撃が、全身で静かな炎症を引き起こすのです。
さらに、年を取ると細胞老化(Cellular senescence)が進み、いわゆる「老化細胞(ゾンビ細胞)」が体内に蓄積します。これらの老化細胞は、炎症を引き起こす様々な物質(炎症性サイトカインなど)を周囲にまき散らし(この現象をSASPと呼びます)、炎症をさらに悪化させるという悪循環を生み出します。つまり、インフラメイジングとは、ある種の「自己免疫・自己炎症」反応と言えるのです。
ヒントは100歳長寿者にあり!驚くべき「腸内」の秘密
では、このやっかいな炎症老化に、私たちはどう立ち向かえば良いのでしょうか。その答えのヒントは、100歳を超えてもなお元気に暮らす人々「センテナリアン」にありました。
彼らの腸内細菌叢(マイクロバイオーム)を調べたところ、驚くべき事実が判明したのです。一般的に、病気になると腸内細菌の多様性は失われます。しかし、健康なセンテナリアンの腸内では、単に衰えるのではなく、有益な「リモデリング」が起きていました。
具体的には、一般的な腸内細菌が減る一方で、クリステンセネラ科に代表されるような、炎症を抑えたり、健康を維持したりするのに役立つ、非常に希少な細菌群が著しく増加していたのです。このユニークな腸内細菌の構成は、食事も遺伝的背景も全く異なるイタリア、日本、中国のセンテナリアンに共通して見られる「健康長寿のサイン」でした。
私たちは体内の“火事”をどうやって消せばいいのですか?

何を食べるかより「いつ食べるか」。生活リズムが鍵を握る
100歳長寿者の研究は、もう一つ重要なヒントをくれました。それは、彼らの食生活において、食べる内容以上に「食事時間の規則性」が際立っていたことです。毎日ほぼ同じ時間に食事を摂ることで、腸内細菌たちの活動リズムが整います。すると、それが全身の概日リズム(サーカディアン・リズム)を安定させ、代謝や睡眠の質を高めることに繋がるのです。
実は、この概日リズムの乱れこそが、それ自体で炎症を引き起こす強力な原因の一つです。夜更かしや不規則な食事は、知らず知らずのうちに体内のボヤ騒ぎを助長しているのかもしれません。「何を食べるか」はもちろん重要ですが、まずは「いつ食べるか」を整えること。これが、今すぐできる炎症老化の予防であり、慢性炎症の治し方の第一歩と言えるでしょう。
生活習慣で「抗炎症スイッチ」をONにする
科学が見つけたヒントを元に、私たちが日常でできることをまとめましょう。
- 食事のリズムを整える: 毎日なるべく同じ時間に食事を摂り、体内時計を整えましょう。
- 腸内環境を育む食事: 発酵食品や食物繊維を積極的に摂り、腸内の善玉菌を応援しましょう。これがセンテナリアンのような強い腸内環境への近道です。
- 抗炎症作用のある食品を選ぶ: 色の濃い野菜や果物、青魚に含まれるオメガ3脂肪酸、スパイスなどは、体内の炎症を抑えるのに役立ちます。
- 質の良い睡眠: 7時間以上の睡眠を確保し、概日リズムを維持しましょう。
- 適度な運動: ウォーキングなどの軽い運動は、血流を改善し、炎症性物質の排出を助けます。
- スキンケアでの炎症ケア: 紫外線は炎症老化による肌トラブルの最大の原因の一つ。日焼け止めによるUVケアは、最も基本的な炎症老化スキンケアです。保湿を徹底し、肌のバリア機能を保つことも重要です。
これらの地道な努力が、体内のNF-κB(炎症反応をコントロールする親玉的タンパク質)の暴走を抑え、静かなる火事を鎮火へと導いてくれるのです。
みんなの生声
関連Q&A

Q. 炎症老化(Inflammaging)が老化に与える影響は何?
A. インフラメイジングは、いわば「老化の司令塔」です。この静かなる炎症が、ドミノ倒しのように全身に悪影響を及ぼします。肌レベルでは、コラーゲンを破壊してシワやたるみを引き起こし(炎症老化 肌)、シミの原因にもなります。体内では、血管を傷つけて動脈硬化を進め、インスリンの効きを悪くして糖尿病のリスクを高め、さらには脳の神経細胞にもダメージを与えて認知症の一因になるなど、まさに「万病のもと」。見た目の老化と、病的な老化の両方を加速させる、非常にやっかいな存在だと覚えておいてください。
Q. 低レベルの慢性炎症が引き起こす健康リスクは何か?
A. 一番怖いのは、自覚症状がないまま静かに進行することです。「なんとなく調子が悪い」程度で、明確な病気ではないため、ほとんどの人が放置してしまいます。しかし、体内では確実に組織の破壊が進行。血管の壁が少しずつ厚くなったり、関節の軟骨がじわじわすり減ったり、細胞のDNAに傷がついたりと、気づいたときには深刻な病気(心筋梗塞、変形性関節症、がんなど)として姿を現します。火災報知器が鳴らないまま、家が静かに燃え広がっているようなもの。これが低レベル慢性炎症の最大のリスクです。
Q. 老化細胞除去療法(senolysis)の効果と未来像は何か?
A. 出ましたな、未来の治療法。老化細胞除去療法(セノリシス)とは、体内に蓄積した「老化細胞(ゾンビ細胞)」だけを選択的に破壊して除去する治療法のことです。ゾンビ細胞は、周囲に炎症をまき散らすトラブルメーカーなので、これを取り除くことで、理論上は炎症老化を根本から抑え、様々な加齢性疾患を改善できると期待されています。現在、動物実験では素晴らしい結果が出ており、人間での臨床試験も始まっています。うまくいけば、数年〜十数年後には、関節に注射したり、点滴したりすることで、若々しさを取り戻す治療が現実のものになるかもしれません。まさに未来のエイジングケアですが、それまでは自力でゾンビを増やさない努力が大事です。
まとめ
さて、今回は「老化 炎症」をテーマに、科学の最前線からお届けしました。
- 老化は単なる衰退ではなく、ダメージに適応し続ける「リモデリング」のプロセスである。
- その過程で生じる「インフラメイジング(炎症老化)」が、万病のもととなる。
- 100歳長寿者の「腸内細菌叢」と「規則正しい生活リズム」に、炎症をコントロールするヒントが隠されている。
結局のところ、若々しく健康でいるための道に、近道や魔法はありません。
ここまで読み進めてくださったあなたは、ご自身の身体と真剣に向き合おうとされている、とても素敵な方です。
これからは、老化と無理に戦うのをやめてみませんか。長年頑張ってくれているご自身の身体の声に耳を澄まし、上手に付き合っていく。そんな新しいステージの始まりです。
例えば、今日の食事に、お腹の中の小さな応援団(腸内細菌たち)が喜ぶ発酵食品をもう一品だけ。あるいは、寝る前に5分だけ、体中の”ボヤ騒ぎ”を鎮めるような、ゆったりとした深呼吸を。
その小さな「いたわり」こそが、未来のあなたを何よりも輝かせる、最高のエイジングケアなのですから。