
減量効果で話題の「オゼンピック」に、若返りの効果まで期待できるという話は、にわかには信じがたいかもしれません。しかし、海外でそのような注目すべきニュースが報じられました。一体、どういうことなのでしょうか。
このニュースの要点は、下記3つです。
- 糖尿病治療薬オゼンピック(一般名:セマグルチド)が、初の臨床試験で生物学的年齢を平均3.1年若返らせる効果を示しました。
- この効果は、DNAの化学的な目印を分析する「エピジェネティッククロック」によって測定され、特に炎症システムと脳では約5年の若返りが見られました。
- 専門家は、オゼンピックが内臓脂肪を減らし、体内の慢性的な炎症を抑えることが、細胞レベルでの若返りに繋がっていると分析しています。
▼ 出典元
Ozempic Shows Anti-Aging Effects in First Clinical Trial, Reversing Biological Age by 3.1 Years
目次
初の臨床試験で明らかに。オゼンピックのアンチエイジング効果
2025年8月、海外で発表されたある臨床試験の結果が、アンチエイジング研究の分野に大きな衝撃を与えています。その主役は、日本でも2型糖尿病治療薬として承認されている「オゼンピック(Ozempic)」です。
米ケンタッキー州の診断会社トゥルーダイアグノスティック(TruDiagnostic)の研究チームが主導したこの臨床試験は、HIV関連の脂肪異栄養症(脂肪の蓄積が特徴で、細胞の老化が加速する疾患)を持つ108人を対象に行われました。
参加者の半数は32週間にわたり週に一度オゼンピックを、残りの半数は偽薬(プラセボ)を投与されました。その結果、オゼンピックを投与されたグループは、生物学的年齢が平均で3.1歳若返ったことが確認されたのです。一方、偽薬グループに変化は見られませんでした。
これは、オゼンピックのようなGLP-1受容体作動薬が、生物学的な老化に直接影響を与えることを示した、初めての臨床的な証拠となります。
どうやって測定?「エピジェネティッククロック」で見る生物学的年齢
今回の試験で「若返り」の指標として使われたのが、「エピジェネティッククロック」という最先端の分析技術です。
これは、私たちのDNAに加えられる「DNAメチル化」という化学的な目印のパターンを読み取るものです。このパターンは年齢とともに予測可能な形で変化するため、「生物学的な年齢」を示す信頼性の高い指標とされています。
暦の年齢(実年齢)と異なり、この生物学的年齢は生活習慣や健康状態によって進んだり、遅らせたりすることが可能です。今回の試験では、オゼンピックがこの時計の針を明確に巻き戻したことが示された形になります。
特に効果が顕著だったのは、炎症システムと脳で、ここでは生物学的老化が約5年も遅延していました。心臓や腎臓でも、同様に顕著な改善が見られたとのことです。
なぜ若返るのか?脂肪と炎症を抑えるメカニズム
研究者たちは、この驚くべきアンチエイジング効果の背景には、オゼンピックが持つ2つの主要な作用があるとみています。
- 有害な脂肪の蓄積を減らす: 内臓周りに過剰に蓄積した脂肪は、老化を促進する分子を放出し、DNAメチル化のパターンを乱します。オゼンピックは、この有害な脂肪を減らすことで、細胞が若々しい環境を取り戻すのを助けます。
- 慢性的な炎症を抑える: 軽度な炎症が体内で持続することは、エピジェネティックな老化の主要な原因の一つです。オゼンピックは、この炎症を抑制する効果があることが知られています。
ミシガン大学医学部のランディ・シーリー氏もこの結果に驚きはないとし、「これらの薬は、多くの細胞にかかる代謝の負担を減らし、炎症を低下させる。どちらも様々な細胞の老化の主要な要因だ」と説明しています。
一般人にも効果は期待できる?研究者の見解と今後の展望
今回の研究対象は特定の疾患を持つ患者でしたが、研究を率いたヴァルン・ドワラカ氏は、「オゼンピックが影響を与える生物学的な経路は、この疾患に特有のものではない。したがって、他の集団でも同様の効果が観察される可能性がある」と述べ、アンチエイジング効果が一般の人々にも及ぶ可能性を示唆しています。
しかし、彼は同時に、「アンチエイジング治療として広く処方するのは時期尚早である」と釘を刺すことも忘れません。
とはいえ、この研究は、糖尿病や肥満治療にとどまらず、心血管疾患、依存症、認知症など、様々な分野で可能性が探られているGLP-1薬のポテンシャルを改めて示す、重要なマイルストーンとなりました。
まとめ
あらためて、このニュースの要点をおさらいします。
- 糖尿病治療薬オゼンピックが臨床試験で生物学的年齢を平均3.1年若返らせたこと。
- 特に炎症システムと脳で約5年の若返り効果が見られたこと。
- 効果のメカニズムは脂肪減少と炎症抑制によるものと推測されること。
もちろん、すぐに私たちがアンチエイジング目的で利用できるわけではありません。しかし、このような研究が進んでいるという事実だけでも、将来に対して少し希望が持てるのではないでしょうか。まずは、今日の夜食を少し控えてみようかな、という気持ちになりますね。