
この記事では、カナダ王立植物園の園芸療法士ナンシー・リー・コーラ・ボトル氏と自然療法医であるジェイジェイ・デュゴア博士の対談を基に、心と体に現れる園芸療法の具体的な効果と、それが私たちの未来の希望となる理由を解説します。
この記事を読めば、下記3つのことがわかります。
- 園芸が「治療」になる理由と、リハビリや認知症ケアへの効果
- 「できない事」ではなく「できる事」に光を当てる園芸療法の思想
- 趣味から人の役に立つ「仕事」へ。セカンドキャリアの可能性
▼ 情報元紹介
- 話し手: ナンシー・リー・コーラ・ボトル(Nancy Lee Colibaba)氏、ジェイジェイ・デュゴア (JJ Dugoua)博士
- 経歴: ナンシー・リー・コーラ・ボトル氏:カナダのカナダ王立植物園(Royal Botanical Gardens, RBG)に所属する園芸療法士であり、園芸療法の分野で長年活動している専門家です。|ジェイジェイ・デュゴア博士:カナダ・トロントを拠点にするナチュロパシー医で、トロント大学で製薬科学のPhDを取得。自然療法の専門家として感染症や免疫、ストレス、不安など幅広い分野に取り組み、園芸療法も含む多面的な自然療法を実践しています。
- 出典元: What Is Horticultural Therapy? | Dr. JJ Dugoua, ND | Naturopathic Doctor in Toronto
※この記事は、講演の紹介であり、医学的アドバイスではありません。健康に関する判断は必ず医師にご相談ください。
目次
もし10年後、何もできなくなった自分を想像して、胸がザワついたなら

親の介護で実家に通うたび、テーブルの上の薬の袋が、静かに増えていくのに気づく。
昔はあんなに器用に編み物をしていた母の手は、今では思うように動かないらしい。一日中、ただぼんやりとテレビを眺めている背中を見ていると、ふと自分の10年後、20年後の姿が重なって、胸がぎゅっと締め付けられる。
子育てが終わり、ふと静まり返った家で自分の時間ができたはずなのに、心にぽっかり穴が開いたような寂しさを感じていませんか。役割を失い、できることが一つずつ減っていく未来を想像し、漠然とした、けれど確かな恐怖を感じたことはありませんか。
なぜ、あなたの「何か始めなきゃ」は、いつも続かないのか?

分かります。私もそうでした。「このままではいけない」と焦って、流行りの健康法に手を出したり、新しい趣味の教室に申し込んだり。
でも、どれも長続きしない。そして「どうせ私には無理なんだ」と、諦めに似た自己嫌悪に陥る。あなたも、そんな経験はありませんか?
断言します。それは、あなたのせいではありません。ただ、アプローチが間違っていただけなのです。
「できなくなったこと」を無理やり取り戻そうとするのではなく、「今でもできること」に光を当てる。そんな、自分を肯定することから始まる「治療法」があるとしたら、知りたくありませんか?
海外の医療現場が注目する「園芸療法」の科学的な効果

園芸療法は、単なる趣味のガーデニングとは一線を画します。それは、心と身体の健康を目的として、専門家が計画的にプログラムを組む、れっきとした「治療法」の一つです。カナダや米国では、園芸療法は認定制度のある専門的職種として活用されており、医療や福祉現場の一部に組み込まれている。祉の現場で実証されています。
リハビリや認知機能の維持に。具体的な3つの効果
園芸療法がもたらす効果は、大きく分けて3つあります。
【身体的な効果】 土を混ぜたり、種をつまんだりする作業は、自然な形で指先のリハビリになります。
【精神的・認知的な効果】 植物の成長計画を立てたり、昔育てた野菜の話をしたりすることで、脳が活性化し、記憶力を刺激します。
【社会的な効果】 共同作業を通して自然と会話が生まれ、社会的な孤立を防ぎます。重要なのは、これらが「楽しい」という感情の中で、無理なく行われる点です。
がん患者の「癒やしの庭」終末期医療における役割
園芸療法の効果は、がん治療などの深刻な医療現場でも注目されています。治療の副作用や将来への不安を抱える患者さんが、穏やかな時間を過ごせるように「ヒーリング・ガーデン(癒やしの庭)」を設ける病院が増えています。
植物の生命力に触れ、土の匂いを嗅ぎ、静かな緑の中で過ごす時間は、患者さんが厳しい治療と向き合うための、心の安らぎと強さを与えてくれるのです。
「障害」でなく「能力」に光を当てるという思想
園芸療法の最も素晴らしい点は、その根底にある思想です。「できなくなったこと」を嘆くのではなく、「今できること」に焦点を当て、その人の中に眠る能力や可能性を引き出します。
たとえ車椅子生活でも、指先が少し動けば種をまくことができる。その小さな成功体験と、植物が応えてくれる確かな手応えが、失いかけた自己肯定感や生きる喜びを取り戻すきっかけになるのです。
あなたに合った「はじめの一歩」は?
このように多くのメリットがある園芸療法ですが、どこから手をつければいいか迷うかもしれません。
- 孤独感や日々のストレスを癒したい方は、「①小さな生命と触れ合う」ことから。
- 将来への漠然とした不安を整理したい方は、「②専門家に話を聞いてもらう」ことから。
- 新しい生きがいや仕事に繋げたい方は、「③まず知識を深める」ことから始めてみましょう。
まずはベランダから。心を癒す小さな一歩を踏み出す3つの方法

「自分にもできるかもしれない」そう感じていただけたなら、とても嬉しいです。専門的な園芸療法でなくとも、そのエッセンスを私たちの生活に取り入れることは、今日からでも可能です。未来の自分への、ささやかで確実な投資を始めてみませんか。
①手始めに小さな観葉植物を一つ育てる
大げさな家庭菜園を始める必要はありません。まずは、管理が簡単な小さな観葉植物やハーブを一つ、部屋に迎えてみましょう。
毎日水をやり、少しずつ成長する姿を眺める。その小さな責任と生命との対話が、あなたの日常に穏やかなリズムと彩りを与えてくれます。初心者向けの観葉植物スターターキットなどから試してみるのも良いでしょう。日陰に強いポトスや、乾燥気味でも育つサンスベリアなどは特に管理が簡単でおすすめです。
②将来の不安を専門家に相談してみる
親の介護やご自身の将来について、一人で抱え込んでいませんか。漠然とした不安は、専門家に話すことで具体的な課題に変わり、心が軽くなることがあります。
自治体の相談窓口や、オンラインカウンセリングサービスなどを利用して、客観的なアドバイスを求めてみるのも有効な一歩です。誰かに頼ることは、決して弱いことではありません。
③「園芸療法」について、もう少し学んでみる
もし、園芸療法そのものに興味が湧いたなら、さらに知識を深めてみるのはいかがでしょうか。趣味としてだけでなく、将来の生きがいや、人の役に立つセカンドキャリアに繋がる可能性も秘めています。
最近では、自宅で学べる園芸療法の入門オンライン講座などもあります。新しいことを学ぶ喜びは、最高のアンチエイジングです。
みんなの生声
関連Q&A

Q. 園芸療法が精神的ストレス緩和にどのように役立つか知りたい
A. 土や緑に触れる五感への穏やかな刺激が、ストレスで過敏になった神経を鎮めます。また、植物の世話という単純作業に集中することで、悩み事から意識が離れ、心がリフレッシュされます。「育てる」という生命への貢献が、自己肯定感を高める効果もあります。
Q. 園芸療法が認知症や高齢者に与える具体的な効果は何か
A. 認知症や高齢者の方には、①指先を使うことによる脳の活性化、②昔の経験を思い出すことによる記憶の刺激、③他者との共同作業による社会的孤立感の緩和、といった具体的な効果が期待できます。何より「役割」があるという感覚が、生きる喜びや自己肯定感に繋がります。
Q. なぜ植物を育てる活動は心身の健康に良いとされるのか
A. 植物を育てる活動は、五感を使い、穏やかな身体活動を促します。植物の成長という目に見える結果が達成感や自己肯定感を与え、日々の世話が生活にリズムと目的をもたらします。見返りを求めない生命との関わりが、プレッシャーのない純粋な喜びとなり、心身のバランスを整えるためです。
まとめ
あらためて、本記事の要点をおさらいします。
- 園芸療法は、心・身体・社会性の3つの側面からQOLを高める。
- 「できないこと」を嘆くのではなく「できること」に光を当てるのが本質。
- 趣味としての癒しだけでなく、生きがいや仕事にも繋がる可能性がある。
先の見えない未来への不安は、尽きないかもしれません。
でも、ひんやりと湿った土を手のひらに感じ、小さな種をそっと指でつまむ。その確かな感触と、生命への小さな責任感が、あなたの「今、ここ」を肯定してくれるはずです。その温かさが、きっと未来への一歩を照らしてくれます。