
「老後は、景色の良い老人ホームでのんびり暮らしたい」。そのような夢をお持ちではないでしょうか。その夢は、もしかしたら、想像以上のお金がなければ叶わなくなるかもしれません。アメリカから、老人ホームの建設費が深刻な事態になっているというニュースをお届けします。
このニュースの要点は、下記3つです。
- 米国で、高齢者向け施設(老人ホーム)の建設市場が、コスト増と投資家の慎重姿勢により減速していること。
- 建設業界の深刻な人手不足と資材コストの上昇が、建設費を高騰させている主な原因であること。
- この建設インフレは2026年にかけてさらに悪化すると予測されており、急増する高齢者人口の受け皿確保が大きな課題となっていること。
▼ 出典元
Senior living construction environment challenged by increased aging population, occupancy
増える高齢者、足りない施設。米国で起きている需給のミスマッチ
高齢化社会が加速する米国で、将来の「終の棲家」を巡る懸念が広がっています。
2025年8月5日、米国の高齢者向け住宅業界ニュースサイト『McKnight’s Senior Living』は、大手建設会社Weitz社が米国シニア住宅協会(ASHA)向けに作成した特別レポートの内容を報じました。
レポートによると、米国の建設市場は経済の先行き不透明感から2025年前半に著しく減速。
そんな中でも、80歳以上の人口は急速に増加し、既存の高齢者向け施設の入居率は改善しているという、皮肉な状況が生まれています。
つまり、「施設に入りたい高齢者は増えているのに、新しい施設を建てるのが難しくなっている」という、深刻な需給のミスマッチが起きているのです。
なぜ建設費は上がり続けるのか?2つの大きな要因
では、なぜ新しい施設を建てることが、これほどまでに困難になっているのでしょうか。
レポートは、2つの大きな要因を指摘しています。
1. 深刻な人手不足:
建設業界の失業率は、過去20年で最低水準の3.4%にまで低下。
業界全体で、既存のプロジェクトをこなすために、実に40万人もの労働者が不足しているという、異常事態に陥っています。
2. 建設インフレ:
人手不足による人件費の高騰に加え、関税などの影響による資材コストの上昇が、建設費全体を押し上げています。
この建設インフレは、2025年後半は2〜3%で推移するものの、プロジェクト数が回復する2026年には4〜7%へと急激に悪化すると予測されています。
【参考】米国の高齢者向け施設の建設コスト
レポートによると、Weitz社が算出したグロス平方フィート(約0.09平方メートル)あたりの建設コストは、以下の通りです。
- 自立型施設 (Independent Living):
- ミドルクラス: 240〜291ドル
- ハイクラス: 283〜362ドル
- 介護付き施設 (Assisted Living):
- ミドルクラス: 278〜354ドル
- ハイクラス: 363〜452ドル
- 高度介護施設 (Skilled Nursing):
- ミドルクラス: 315〜373ドル
- ハイクラス: 393〜505ドル
ミドルクラスは主に木造で標準的な設備、ハイクラスは鉄骨やコンクリート造で豪華な設備を持つ施設を指します。
日本の私たちにとっての意味とは?
「これはアメリカの話」と、片付けてしまって良いのでしょうか。
いいえ、これは高齢化で先行する日本の、すぐそこにある未来の姿かもしれません。
日本でも、建設業界の人手不足と資材高騰は、すでに深刻な問題となっています。
団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」を乗り越えても、高齢者人口は高止まりを続けます。
このニュースが示唆するのは、将来、私たちが望むような質の高い老人ホームに入るためには、今私たちが想像している以上のお金が必要になるかもしれない、という厳しい現実です。
「いざとなったら施設に入ればいい」という漠然とした考えは、もはや通用しない時代が来るのかもしれません。
元気なうちから、将来の住まいと、そのために必要なお金について、真剣に計画を立てておく必要がありそうです。
まとめ
あらためて、このニュースの要点をおさらいします。
- 米国で、高齢者向け施設(老人ホーム)の建設市場が、コスト増と投資家の慎重姿勢により減速していること。
- 建設業界の深刻な人手不足と資材コストの上昇が、建設費を高騰させている主な原因であること。
- この建設インフレは2026年にかけてさらに悪化すると予測されており、急増する高齢者人口の受け皿確保が大きな課題となっていること。
結局のところ、人手がいなければ家も建たないのですから、老人ホームも建つわけがありません。誰もが入りたいと望むような質の高い施設は、これからますます「高嶺の花」になっていくのかもしれません。自分自身の将来は、自分自身で守るしかないということなのでしょう。