
「手軽に若返る」というような魅力的な話には、注意が必要かもしれません。アメリカでは、アンチエイジングのイベントで注射を受けた女性が入院したという、深刻なニュースが報じられました。あなたの「若返りたい」という切実な願いが、不適切な業者に利用されていないでしょうか。
このニュースの要点は、下記3つです。
- 米国のアンチエイジングイベントで「ペプチド注射」を受けた女性2人が重篤な状態に陥り、入院したこと。
- この種のアンチエイジング療法で使われる調合薬局製のペプチドは、FDA(米国食品医薬品局)の承認を受けていないこと。
- FDAは人気のペプチド成分の多くに「重大な安全上のリスク」があることを指摘しており、安易な利用には警鐘が鳴らされていること。
▼ 出典元
Two Women Fall Ill After Shots at Anti-Aging Forum
「若返り」を求めて…イベント会場で何が起きたのか?
「いつまでも若々しくありたい」。その願いは、誰もが持つ自然な感情です。しかし、その願いに付け込む、危険な落とし穴が存在することを、私たちは知っておかなければなりません。
2025年7月、米国のニュースサイトProPublicaは、ラスベガスで開催された「老化と死への革命フェスティバル」というアンチエイジングのイベントで、注射を受けた女性2人が深刻な健康被害に見舞われたと報じました。
カリフォルニア州在住の38歳と、ネバダ州在住の51歳の女性は、老化の進行を遅らせることを目的とした注射を受けた後、病院に搬送され、人工呼吸器を装着されるほどの重篤な状態に陥ったのです。幸い、両名は回復に向かっているとのことですが、保健当局が原因の調査に乗り出す事態となっています。
注目される「ペプチド療法」とその背景
彼女たちが受けたのは、「ペプチド注射」と呼ばれるものでした。ペプチドとは、アミノ酸が複数結合したもので、近年、一部の著名人が「老化や慢性疾患と闘う方法」として宣伝したことなどから、代替医療の一つとして人気が高まっています。
しかし、この「人気」には大きな注意点があります。米国食品医薬品局(FDA)は、がんや糖尿病などの治療のために、特定の「ペプチドベースの医薬品」を承認しています。これらは、厳格な管理と試験を経て、安全性と有効性が確認されたものです。
医師の見解と規制の「抜け穴」
一方で、今回のようなアンチエイジング療法で使われるペプチドの多くは、「調合薬局」として知られる施設で独自に調合されたものです。そして、これらの調合薬は、FDAの承認を受けていません。
FDAは、人気のペプチド調合成分のうち、少なくとも18種類に「重大な安全上のリスク」が見つかったと警告しています。つまり、効果が科学的に証明されていないだけでなく、体に深刻な害を及ぼす可能性があるということです。
今回、注射を提供したブースを監督する医師は、「原因を究明したいが、ほぼ確実にペプチドのせいではないだろう」と主張しています。しかし、規制の網の目をくぐり抜けた未承認の治療法が、消費者の「若返りたい」という切実な願いを食い物にしている構図が浮かび上がってきます。
日本の私たちにとっての教訓
「これはアメリカの話だから」と、安心はできません。日本でも、科学的根拠が乏しいまま「アンチエイジング」や「若返り」を謳う、自由診療のクリニックや商品は数多く存在します。
今回の事件が私たちに教えてくれる最も重要な教訓は、「手軽さ」や「最新」といった言葉に惑わされず、その治療法が国の規制当局(日本では厚生労働省やPMDA)によって、安全性と有効性がきちんと確認されたものであるかを、自分自身の目で確かめる重要性です。
あなたの不安や願いに付け込むビジネスは、後を絶ちません。大切な自分の体を守るために、まずは信頼できる医師に相談することから始めましょう。
まとめ
あらためて、このニュースの要点をおさらいします。
- 米国のアンチエイジングイベントで「ペプチド注射」を受けた女性2人が重篤な状態に陥り、入院したこと。
- この種のアンチエイジング療法で使われる調合薬局製のペプチドは、FDA(米国食品医薬品局)の承認を受けていないこと。
- FDAは人気のペプチド成分の多くに「重大な安全上のリスク」があることを指摘しており、安易な利用には警鐘が鳴らされていること。
「楽に若返りたい」という気持ちは、悪質な業者が最も利用しやすい感情の一つです。注射一本で失った健康は、どれほどの大金を積んでも取り戻すことはできません。鏡を見てため息をつく前に、まずはその治療が国の承認を受けたものか、ご自身の目でしっかりと確かめることが重要です。