
この記事では、老化研究の世界的権威ニール・バルジライ博士が、年間3億円を投じるブライアン・ジョンソン氏のアンチエイジング法をどう評価しているのか、その核心を解説します。
この記事を読めば、下記3つのことがわかります。
- 老化研究の権威が、ブライアン・ジョンソン氏の活動を「フラストレーションの表れ」と共感する理由。
- 105種類のサプリを飲む彼と、たった3つの習慣を続ける専門家。二人の若返り効果が同じだった衝撃の事実。
- なぜ彼の真似をしてはいけないのか?科学の基本である「N=1の実験」の限界と、私たちが陥りがちな罠。
▼ 情報元紹介
- 講演者: ニール・バルジライ(Nir Barzilai)博士
- 経歴: アルバート・アインシュタイン医科大学老化研究所所長で、ヒト長寿遺伝子の発見や老化の遺伝学的・生物学的研究で世界的に著名な科学者。著書『Age Later』もある。
- 出典元: Nir Barzilai on Bryan Johnson’s Blueprint for Longevity (CLIP)
※この記事は、講演の紹介であり、医学的アドバイスではありません。健康に関する判断は必ず医師にご相談ください。
100種類のサプリ、本当に全部必要?

「朝起きたら、まずNMNとレスベラトロールを飲んで…」
「寝る前には、マグネシウムとメラトニンが欠かせないらしい」
健康長寿を目指して情報を集めれば集めるほど、飲むべきサプリのリストはどんどん長くなっていく。気づけば、キッチンの棚は、色とりどりのサプリのボトルで埋め尽くされている。
「本当に、これ全部飲まないとダメなのかな…」
「こんなにお金をかけて、一体どれが本当に効いているんだろう…」
そんな疑問が頭をよぎっても、不安だからやめられない。特に、年間3億円をかけて若返りを図るブライアン・ジョンソン氏が、100種類以上のサプリを飲んでいると聞くと、「やっぱり、これくらいやらないとダメなのか」と、焦りを感じてしまう。
この、終わりなき「やるべきことリスト」地獄。それは、あなたの健康への探求心を、いつしか義務感と不安に変えてしまう、静かなる罠なのです。
いつまで“インフルエンサーの健康法”に振り回されますか?

私もかつては、有名なバイオハッカーが推奨するものは、すべて正しいと信じていました。彼らの真似をして、食事を変え、サプリを買い、ガジェットを試す。しかし、思うような効果は得られず、むしろ「なぜ自分だけうまくいかないんだ」と、自己嫌悪に陥るばかり。
今なら分かります。彼らにとっての「正解」が、私にとっての「正解」である保証は、どこにもないのです。遺伝的背景も、生活環境も、ストレスレベルも、すべてが違うのですから。
だからこそ、あなたに伝えたい。誰かの成功事例をただ真似るのではなく、科学の「原則」を学び、自分自身の体と対話すること。それこそが、情報の大海原で溺れないための、唯一の羅針盤なのです。
ブライアン・ジョンソンは「非科学的」。これが権威の冷静な評価

年間3億円、105種類のサプリメント、30人以上の専門家チーム…。ブライアン・ジョンソン氏のアンチエイジング法は、まさに究極のプロジェクトに見えます。しかし、老化研究の世界的権威であるバルジライ博士は、そのアプローチに冷静な視線を向けます。
驚くべき事実:若返り効果は、専門家と「同じ」だった
バルジライ博士は、ジョンソン氏と直接会って話した経験を語ります。そして、衝撃の事実を明かしました。同じ方法で生物学的年齢を測定したところ、二人の結果は「実年齢より3歳若い」という、ほぼ同じ数値だったのです。
しかし、その中身は全く異なりました。
- ブライアン・ジョンソン: 運動、食事制限、105種類のサプリなど、多岐にわたる介入。
- ニール・バルジライ博士: 断続的断食、毎日の運動、メトホルミンの服用という、たった3つのシンプルな習慣。
博士は、「彼は私よりも遥かに多くのことをしているのに、得られる効果は同じだ」と指摘。これは、ジョンソン氏が実践する膨大な介入の多くが、実は効果がないか、あるいは互いに効果を打ち消し合っている可能性を示唆しています。
科学の基本:「N=1」の限界
さらに博士は、ジョンソン氏のアプローチが抱える、より根本的な問題を指摘します。それは、彼のプロジェクトが「N=1(被験者1人)」の実験に過ぎない、ということです。
彼の成功(あるいは失敗)は、彼の特異な遺伝的背景やライフスタイルに依存しており、その結果を他の誰かに当てはめることは科学的に不可能です。医学が進歩するためには、多くの被験者による大規模な臨床試験で、その治療法が安全で、集団全体に対して有効であることを証明する必要があります。
博士は、「もし彼が費やした2000万ドルが、科学的な研究に向けられていれば、人類全体にとって遥かに大きなインパクトがあっただろう」と、その資金の使い方にさえ、静かな疑問を呈しているのです。
あなたの体質、知っていますか?
ある人には効果的なサプリが、あなたには合わないかもしれません。その違いは、遺伝子に隠されています。最新の遺伝子検査キットなら、あなたに本当に必要な栄養素や、効果的な健康法を知るためのヒントが得られます。
解決策は「個別化」。あなたの“ブループリント(青写真)”の見つけ方

では、ブライアン・ジョンソン氏の極端な例から、私たちは何を学ぶべきなのでしょうか。その答えは、「誰かの真似をするのではなく、自分自身の体と対話し、自分だけのブループリント(青写真)を描くこと」にあります。
1. 「害を為すなかれ」の原則
医師が最初に学ぶ最も重要な原則は、「患者に害を与えてはならない」ということです。これは、私たちの健康管理にも当てはまります。105種類ものサプリを一度に摂ることは、予期せぬ相互作用や副作用のリスクを高める可能性があります。まずは、安全性が確立された、シンプルな習慣から始めることが賢明です。
2. 「個別化医療」という未来
バルジライ博士が強調するのは、「個別化医療 (Personalized Medicine)」の重要性です。私たちに必要なのは、万人に効く魔法の薬ではなく、「あなたの遺伝子」「あなたのライフスタイル」「あなたのバイオマーカー」に基づいた、オーダーメイドの治療法です。
- バイオマーカーの活用: 定期的な血液検査などで自分の体の状態を客観的に把握し、何が足りていて、何が過剰なのかを知る。
- 専門家との対話: 医師や専門家と相談し、そのデータに基づいて、自分に本当に必要な介入(食事、運動、サプリメントなど)を選択する。
3. 「N+1」という希望
博士は、ジョンソン氏の「N=1」に対し、「N+1」というアプローチの重要性を説きます。これは、医師の監督下で、一人、また一人と、科学的根拠のある治療を試していく臨床データの集積です。
私たち個人ができることは、ブライアン・ジョンソン氏のように莫大な費用をかけることではありません。信頼できる医師や専門家を見つけ、科学的なデータに基づいて自分の健康を管理し、その小さな成功体験を積み重ねていくこと。その一人ひとりの「+1」が、いずれ社会全体の健康水準を高める、大きな力となるのです。
みんなの生声
関連Q&A

Q. ブライアン・ジョンソン氏の若返りプロジェクト「ブループリント」の科学的根拠は何か?
A. 「ブループリント」は、公開されている科学論文や臨床データを基に、彼と彼の専門家チームが構築したものです。食事法はカロリー制限と植物中心食、サプリメントはNAD+前駆体やメトホルミンなど、それぞれに老化研究の裏付けがあります。しかし、バルジライ博士が指摘するように、それら100種類以上を組み合わせた際の相乗効果や副作用については科学的根拠がなく、あくまでジョンソン氏個人の「N=1」の壮大な人体実験と言えます。
Q. 彼のアンチエイジング法で特に効果的とされる要素は何か?
A. 多くの専門家が特に重要だと指摘するのは、彼の厳格な生活習慣の基盤となっている部分です。具体的には、①栄養バランスが計算されたカロリー制限食、②毎日1時間の多様な運動、③完璧に管理された質の高い睡眠、④徹底したストレス管理、の4つです。これらは、多くの科学的研究で健康寿命を延ばす効果が証明されている、アンチエイジングの王道とも言える要素です。
Q. 彼が試した若返り治療の中で最も議論を呼んだのは何か?
A. 最も物議を醸したのは、彼が17歳の息子から若い血漿の輸血を受けた「三世代血漿交換」です。若い血液が老化を逆転させるという仮説に基づくものでしたが、ジョンソン氏自身が数ヶ月後に「効果が見られなかった」として中止を発表しました。これは、動物実験で示された結果が、必ずしも人間にそのまま当てはまるわけではないことを示す象徴的な出来事となりました。
まとめ
あらためて、今日の話の要点をおさらいします。
- 老化研究の権威は、ブライアン・ジョンソン氏の活動を「フラストレーションの表れ」と一定の理解を示している。
- 105種類のサプリを飲む彼と、たった3つの習慣を続ける専門家。二人の若返り効果はほぼ同じだった。
- 彼の真似は「N=1の実験」であり科学ではない。重要なのは、自分に合った個別化されたアプローチを見つけること。
「年間3億円も使って、一体何と戦っているのでしょうか。しかも、105種類ものサプリメントを摂取して、その結果が専門家と同じというのは、もはや冗談のようです。
結局のところ、本当に大切なのは『何を追加するか』ではなく、『何をしなくてもよいか』を見極めることかもしれません。