
「孤独はタバコ15本分の害」。そんな定説に一石を投じる、驚くべき研究結果が海外で発表されました。将来の孤独に不安を抱える私たちにとって、このニュースは一体何を意味するのでしょうか?「孤独」と「健康リスク」の、これまで語られなかった複雑な関係に迫ります。
このニュースの要点は、下記3つです。
- カナダなどの高齢者約40万人を調査した結果、孤独を感じている人の方が1年以内の死亡リスクが最大23%低かった。
- これは、「孤独=早期死亡」というこれまでの医学界の常識とは逆の結果である。
- 研究者は、「健康悪化が孤独の原因」である可能性や、「在宅介護サービス」が社会的接触の役割を果たしている可能性を指摘している。
▼ 出典元
Lonely Older Adults May Actually Live Longer, Surprising Study Shows
「孤独は体に悪い」は本当か?カナダから届いた衝撃の研究
「社会的孤立は、1日にタバコを15本吸うのと同じくらい健康に有害である」。
これは、公衆衛生の分野で長年語られてきた「常識」です。孤独が心身の健康を蝕み、早期死亡のリスクを高めることは、数多くの研究によって示されてきました。
しかし、2025年6月、カナダのウォータールー大学 (University of Waterloo) が主導する国際研究チームが、この常識を根底から揺るがすかもしれない、驚くべき研究結果を医学誌「JAMDA」で発表しました。
約40万人の調査で見えた「孤独の逆説」
この研究は、カナダ、フィンランド、ニュージーランドの3カ国で、在宅介護サービスを利用している高齢者、合計約40万人という大規模なデータを分析したものです。
研究チームは、専門の医療従事者による評価で「孤独を感じている」とされたグループと、「孤独を感じていない」とされたグループを1年間追跡し、その後の死亡率を比較しました。年齢や性別、持病の有無といった、死亡リスクに影響を与える数十の要因を厳密に調整した上での分析です。
その結果は、研究者たちの予想を裏切るものでした。
3カ国すべてにおいて、「孤独を感じている」高齢者の方が、1年以内の死亡リスクが一貫して低かったのです。
- カナダ: 18%のリスク低下
- フィンランド: 15%のリスク低下
- ニュージーランド: 23%のリスク低下
この「孤独の逆説」とも言える現象は、一体何を意味するのでしょうか?
なぜ「孤独な人」の方が長生きだったのか?3つの仮説
研究チームは、この逆説的な結果について、いくつかの仮説を提示しています。
- 「原因」と「結果」が逆だった?
「孤独が不健康を招く」のではなく、「深刻な健康悪化が、孤独を感じさせなくしている」のかもしれません。つまり、本当に死期が近いほど重篤な状態の人は、自身の社会的ニーズを認識したり、他者に「寂しい」と伝えたりする気力や認知能力さえ失っている可能性がある、という考え方です。実際に、孤独を感じているグループの方が、研究開始時点での身体機能は高い傾向にありました。 - 医療サービスへのアクセスの違い
過去の研究では、孤独な人ほど医療サービスを頻繁に利用する傾向が示されています。在宅介護を受けている人々の場合、この傾向が病気の早期発見や、より手厚いケアにつながり、結果的に死亡を防いでいる可能性があります。 - 「在宅介護」そのものが社会的セーフティネットに
看護師やケアワーカーによる定期的な訪問は、医療的な支援だけでなく、孤立した高齢者にとって貴重な「社会的接触」の機会となります。この専門家との人間的なつながりが、本来であれば孤独がもたらすはずの健康リスクを和らげているのではないか、と研究者は推測しています。
この研究が私たちに教えること
この研究は、「孤独を感じても良い」と言っているわけでは決してありません。研究チームも、「孤独が生活の質(QOL)を著しく損なう深刻な問題であることに変わりはない」と強調しています。
しかし、この研究は、私たちが「孤独」という問題に対して、より多角的で深い視点を持つことの重要性を教えてくれます。特に、支援を必要とする虚弱な高齢者においては、「孤独=即、生命の危機」という単純なレッテル貼りを避け、その人自身の身体的、精神的な状態を丁寧に見ていく必要があるのかもしれません。
まとめ
あらためて、このニュースの要点をおさらいします。
- カナダなどの高齢者約40万人を調査した結果、孤独を感じている人の方が1年以内の死亡リスクが最大23%低かった。
- これは、「孤独=早期死亡」というこれまでの医学界の常識とは逆の結果である。
- 研究者は、「健康悪化が孤独の原因」である可能性や、「在宅介護サービス」が社会的接触の役割を果たしている可能性を指摘している。
「これまで『孤独は体に悪い』とさんざん言われてきたにもかかわらず、今度は『孤独な人の方が長生きする』というのですか。一体どういうことなのでしょう。「寂しい」と感じたその瞬間に、誰かと繋がろうとする力がまだ私たちの中に残っているのだと思います。孤独そのものが悪いのではなく、孤独を放置すること、そして「寂しい」と言えない状態こそが、心身を蝕むのかもしれません。