
この記事では、心理学者でありバイオハッカーでもあるマルコス・アプッド氏の講演に基づき、多くの人が悩む「疲れやすくて体力がない」という問題の根本原因と、その科学的な解決策について解説します。
この記事を読めば、下記3つのことがわかります。
- 8時間寝ても疲れが取れない本当の理由と、「深い睡眠」を取り戻すための具体的な時間術。
- 夜の食事が老化を早める?私たちの体に刻まれた「体内時計」に従った、最も効率的な食事法。
- 運動しているのに体力がつかない人の盲点。「アクティブな休息」で、座りがちな生活を劇的に改善する方法。
▼ 情報元紹介
- 話し手: マルコス・アプッド(Marcos Apud)氏
- 経歴: アルゼンチンを拠点に活動する臨床心理士・バイオハッカー・ウェルネスコーチ・著者・国際的スピーカーです。「Mucho más que humanos(人間を超えて)」の著者であり、イノヴァ(Innova)創業者。心身の最適化やパフォーマンス向上をテーマに、世界中で講演やコーチング、執筆活動を行っています。
- 出典元: Sueño profundo, pausas activas y alimentación circadiana: los secretos de un bio-hacker
※この記事は、講演の紹介であり、医学的アドバイスではありません。健康に関する判断は必ず医師にご相談ください。
8時間寝たのに、なぜ朝起きるのがこんなに辛いのか?

アラームが鳴り響く朝。重い体を無理やり起こし、キッチンに向かう。コーヒーを淹れても、頭はまだ分厚い霧の中。「ちゃんと8時間は寝たはずなのに…」。
そんな毎日を繰り返していませんか?
若い頃は、一晩寝ればどんな疲れもリセットできたはず。しかし40代、50代になると、十分な睡眠時間を確保しても、朝から体が鉛のように重く、日中も常に眠気に襲われる。階段を上るだけで息が切れ、集中力も続かない。
「歳のせいだから、体力がなくなったのは仕方ない」。そう自分に言い聞かせ、栄養ドリンクやエナジードリンクで、その場しのぎの活力を注入する。でも、心のどこかで分かっているはずです。これは、ごまかし続けてはいけない、体からの危険信号なのだと。このままエネルギーが枯渇し、何もやる気が起きない毎日が続いたら、自分の人生はどうなってしまうのだろう。その静かな恐怖が、一番辛いのです。
いつまで“気合と根性”に頼りますか?

私もかつては、「疲れているのは、努力が足りないからだ」と信じて疑いませんでした。仕事で疲弊しきった体に鞭を打ち、ジムでさらに自分を追い込む。睡眠時間を削って、自己啓発本を読む。「もっと頑張らなければ」。その強迫観念が、私を突き動かす唯一のエネルギーでした。
その結果、どうなったか。体は慢性的な疲労で悲鳴を上げ、心は常に張り詰め、些細なことでイライラする毎日。ある朝、ベッドから起き上がれなくなり、すべてが燃え尽きてしまったことに、ようやく気づいたのです。
だからこそ、あなたに伝えたい。あなたの疲れやすさや体力のなさは、決してあなたの「気合」や「根性」の問題ではありません。それは、あなたの体が持つ素晴らしいシステムを、知らず知らずのうちに、あなたが「間違った方法」で使い続けてきた結果なのです。
老化の真犯人は「体内時計の乱れ」。

なぜ、私たちは歳を重ねると疲れやすくなるのでしょうか。その根本的な原因を、バイオハッカーのアプッド氏は、私たちの体内に刻まれた「サーカディアンリズム(概日リズム)」、つまり「体内時計」の乱れにあると指摘します。
人間は、何万年もの間、太陽とともに生き、太陽とともに眠る生活を送ってきました。私たちの体内の約37兆個の細胞は、今でもそのリズムに従って、ホルモンの分泌や代謝、体温調節などを行っています。この、本来あるべき自然のリズムを無視した現代の生活習慣こそが、私たちのエネルギーを奪い、老化を加速させる真犯人なのです。
1. 夜の食事が、あなたの睡眠を破壊する
アプッド氏が「現代人が取り入れた最悪の習慣の一つ」と断言するのが、夜遅い時間の食事です。
私たちの消化器系は、夜になると休息モードに入るように設計されています。しかし、夜遅くに食事をすると、寝ている間も胃腸は強制的に働かされ、体は本来行うべき修復やメンテナンス作業に集中できません。これが、睡眠の質を著しく低下させ、「たくさん寝たはずなのに疲れている」という状態を生み出す最大の原因です。理想は、就寝の3時間前には食事を終えることです。
2. 深い睡眠を逃している
同じ8時間睡眠でも、夜10時に寝るのと、深夜2時に寝るのでは、全く意味が違います。成長ホルモンが分泌され、体の修復が最も活発に行われる「深い睡眠」は、主に夜の前半(午後10時半〜12時頃)に集中しています。このゴールデンタイムを逃すと、いくら長く寝ても、体の疲れは抜けきらないのです。
「ちゃんと寝ているつもり」でも、実は深い睡眠がとれていないかもしれません。最新の睡眠改善グッズやトラッカーを使えば、自分の睡眠の質を客観的に把握し、改善のための具体的なヒントを得ることができます。
解決策は「祖先の知恵」。今日から始めるバイオハック術

では、この乱れてしまった体内時計をリセットし、エネルギーに満ちた体を取り戻すにはどうすれば良いのでしょうか。その解決策は、最先端の科学と、私たちが忘れてしまった「祖先の知恵」を融合させることにあります。
1. 朝の光を浴び、夜の光を断つ
体内時計をリセットする最も強力なスイッチは「光」です。
- 朝: 起きたらまず、カーテンを開けて自然光を浴びましょう。これが、体を目覚めさせ、一日の活動リズムを整えます。日が昇る前に起きる場合は、赤外線ライトなどが有効です。
- 夜: 就寝2〜3時間前からは、部屋の照明を暗くし、スマートフォンやPCのブルーライトを避ける。「デジタル夜間外出禁止令」を自分に課すことが、質の高い睡眠への第一歩です。
2. 「トレーニングをする座りがちな人」から脱却する
「毎日ジムで運動しているから、自分は健康的だ」。そう思っていませんか?しかし、1時間運動しても、その後8時間デスクに座り続けていれば、あなたは「トレーニングをする座りがちな人」に過ぎないと、アプッド氏は警告します。
座りっぱなしの生活は、血流を滞らせ、代謝を低下させます。解決策は「アクティブな休息(Pausas Activas)」。1時間座ったら、最低でも2〜3分は立ち上がって体を動かす習慣をつけましょう。腕立て伏せ、スクワット、あるいはその場で足踏みするだけでも効果はあります。
3. 思考の奴隷から、心の主人へ
体のエネルギーだけでなく、心のエネルギーを高めることも重要です。アプッド氏は、ネガティブな感情に支配されないための、神経言語プログラミング (NLP) に基づくシンプルなテクニックを紹介しています。
それは、「望まない状態と戦わない」こと。
「もうイライラしたくない」と考えるのではなく、「穏やかな気分でいたい」と、「自分が望む状態」を心に描く。脳は、否定形を理解できません。「イライラ」という言葉に焦点を当てるのではなく、「穏やか」というポジティブなゴールを脳に与えることで、心は自然とそちらの方向へ向かい始めるのです。
みんなの生声
関連Q&A

Q. 疲れやすさの原因は、何か特定の健康問題に関係していますか?
A. はい、関係している可能性があります。単なる加齢や睡眠不足だけでなく、貧血(鉄分不足)、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏、あるいは慢性疲労症候群といった病気が隠れていることもあります。また、体内時計の乱れ(サーカディアンリズム障害)も、ホルモンバランスや自律神経に影響を与え、深刻な疲労感の原因となります。続く不調に悩んでいる場合は、一度専門の医療機関に相談することをお勧めします。
Q. 体力を向上させるために、日常生活でできる具体的な方法は何か?
A. ジムでの激しい運動だけでなく、日常生活の「動き」を増やすことが重要です。まずはエレベーターの代わりに階段を使う、一駅手前で降りて歩くなど、小さなことから始めましょう。特に効果的なのが、この記事で紹介された「アクティブな休息」です。デスクワーク中、1時間に1回は立ち上がり、数分間のスクワットやストレッチを行う習慣をつけるだけで、全身の血流が改善し、体力の低下を防ぐことができます。
Q. どの栄養素や食事習慣が体力回復に効果的ですか?
A. エネルギーを生み出し、筋肉を修復するために、バランスの取れた食事が不可欠です。特に、筋肉の材料となる「タンパク質」(肉、魚、卵、豆類)、持続的なエネルギー源となる「複合炭水化物」(玄米、オートミール、芋類)、そして細胞の機能を助ける「ビタミンB群」や「マグネシウム」が重要です。また、夜遅い食事は睡眠の質を下げ、回復を妨げるため、就寝3時間前には食事を終える習慣を心がけましょう。
まとめ
あらためて、今日の話の要点をおさらいします。
- 慢性的な疲労の根本原因は、体内時計の乱れ。特に「夜の食事」と「光の浴び方」が鍵。
- 運動しても座りっぱなしでは意味がない。「1時間に1回の運動スナック」で体をリセットする。
- 心のエネルギーは「望む状態」をイメージすることで高まる。「〜したくない」という思考は手放す。
これまであなたは、「疲れやすい」自分の体を、ただ責めていたかもしれません。しかし、この記事を読んだ今、その原因が、あなたの意志の弱さではなく、現代生活に潜む「見えない罠」にあったことに気づいたはずです。さあ、明日の朝は、スマホを手に取る前に、まずカーテンを開けてみませんか?窓から差し込む朝日の温かい光が、あなたの細胞一つ一つを目覚めさせ、「今日も一日頑張ろう」という、忘れていた活力を静かに満たしてくれるはずです。