
この記事では、ウクライナの遺伝学者、オレクサンドル・コリャダ博士の講演に基づき、多くの人が信じている免疫力を高めるという考え方の落とし穴と、老化とともに本当に意識すべき体の守り方について解説します。
この記事を読めば、下記3つのことがわかります。
- なぜ「免疫力は高めるものではない」のか?多くの人が知らない免疫システムの本当の働きと仕組み。
- ビタミンCや免疫サプリは効果なし?巷の健康法に潜む、科学的に見た3つの大きな誤解。
- 老化に負けない体を作る!今日からできる、免疫システムの「バランス」を整えるための4つの生活習慣。
▼ 情報元紹介
- 話し手: オレクサンドル・コリャダ(Олександр Коляда)博士
- 経歴: ウクライナ出身の遺伝学者・エピゲノム研究者。キエフ大学卒業後、老化や長寿に関する分子生物学・エピゲネティクスを専門とし、ウクライナ国立老年学研究所のエピゲノミクスラボで先端研究に従事。科学普及や健康啓発活動にも取り組み、科学メディア出演、著述、教育活動を通じて国内外で高い評価を得ている。
- 出典元: Повний гайд про ІМУНІТЕТ. Руйнуємо міфи, чому ми лікуємось неправильно та як менше хворіти
※この記事は、講演の紹介であり、医学的アドバイスではありません。健康に関する判断は必ず医師にご相談ください。
その喉の痛み、本当に風邪?エアコンの風が、去年より沁みませんか?

オフィスで仕事をしている時、ふとエアコンの風が首筋に当たって、ゾクッとしたことはありませんか?去年までは何ともなかったはずなのに、今年はなぜか、その冷たい風がまるでカミソリのように鋭く感じられる。そして、その数時間後には、決まって喉の奥がイガイガし始める。
「また風邪のひきはじめか…」。急いでうがいをし、のど飴をなめ、ビタミンCのドリンクを飲む。でも、心のどこかで分かっているはずです。「これは、ただの風邪じゃない」と。
周りの同僚たちは同じ環境にいるのに、なぜか自分だけが季節の変わり目に体調を崩す。治りも昔に比べて明らかに遅い。熱は出ないけれど、常に体が重だるく、頭に薄い膜がかかったような状態が続く。
病院へ行っても「疲れでしょう」と一蹴されるだけ。この、誰にも理解されない「自分だけの不調」。それは、あなたの免疫システムが「助けて!」と叫んでいる、静かだけれど、切実な悲鳴なのかもしれません。
いつまで“免疫神話”に振り回されますか?私はそれで体を壊しかけました

一体、いつまで巷の“免疫神話”に振り回され続けるつもりですか?
厳しい言葉に聞こえたら、本当に申し訳ありません。でも、これは過去の私自身に、後悔と自戒を込めて投げかけている言葉でもあるのです。
私もかつては、「免疫力こそ最強!」と信じて疑わない“免疫信者”でした。「免疫力アップ」と名のつくものは片っ端から試し、毎日ヨーグルトを食べ、高価なサプリを飲み、冬はマフラーとマスクで完全防備。風邪をひくのは免疫力が低い証拠だと、自分を責め続けました。
その結果、どうなったか。過剰なケアは、私の免疫システムを逆に混乱させ、アレルギー症状を悪化させました。そして、風邪をひいた時には「もっと免疫をブーストさせなきゃ!」と、さらに体を追い込み、回復を遅らせる悪循環に。良かれと思ってやっていたことが、すべて裏目に出ていたのです。
お金も時間も、そして何より、大切な健康も失いかけて、私はようやく気づきました。本当の敵はウイルスではなく、自分自身の「無知」と「思い込み」だったのだと。だからこそ、あなたには、私と同じ轍を踏んでほしくない。心からそう願っています。
免疫は「暴走」する。これが老化による不調の正体

多くの人が信じている「老化=免疫力の低下」という図式。しかし、科学的な事実は、もう少し複雑です。40代、50代からの不調の本当の原因は、免疫力の単純な「低下」ではなく、むしろ免疫システムの「暴走」と「バランス崩壊」にあるのです。
暴走する警察官「自然免疫」
私たちの体には、生まれつき備わっている「自然免疫」という警備隊がいます。彼らは体内に侵入したウイルスや細菌を見つけると、すぐに駆けつけて攻撃を開始します。この時に出す警報が「炎症」です。発熱や喉の痛みといった症状は、彼らが懸命に戦っている証拠なのです。
しかし、加齢やストレスによってこの自然免疫が疲弊してくると、彼らはパニックを起こしやすくなります。ほんの小さな脅威に対しても、必要以上に大騒ぎし、大規模な炎症を引き起こしてしまうのです。これが、症状が重くなったり、長引いたりする大きな原因です。まるで、空き巣相手にバズーカ砲を撃ちまくる、暴走した警察官のようなものです。
機能しない特殊部隊「獲得免疫」
もう一つ、私たちの体には、一度戦った敵を記憶し、的確に狙い撃ちする「獲得免疫」という特殊部隊がいます。ワクチンはこの仕組みを利用したものです。しかし、この特殊部隊も、加齢とともに記憶力が低下したり、新しい敵に対応する能力が衰えたりします。
つまり、老化による免疫の問題とは、警備隊(自然免疫)は暴走しやすくなるのに、特殊部隊(獲得免疫)は肝心な時に役に立たないという、非常に厄介な状態なのです。免疫力を「高める」という単純な発想では、この複雑な問題を解決することはできません。
自分の体の状態、正しく把握できていますか?
「なんとなく不調」の原因は、免疫力以外にも隠れているかもしれません。栄養バランスの乱れや、ホルモンの変化など、目に見えない体のリスクを客観的に知ることが、正しい対策の第一歩です。
解決策は「鎮静」と「教育」。科学的に正しい免疫ケア

では、暴走しがちな免疫システムをなだめ、賢く働いてもらうためには、どうすればいいのでしょうか。解決策は、免疫を「ブースト」するのではなく、「鎮静」させ、正しく「教育」すること。今日からあなたの生活に取り入れられる、科学に基づいた4つのアプローチを紹介します。
1. 腸を整える:最高の「免疫訓練所」
私たちの腸は、体内最大の免疫器官です。多種多様な腸内細菌が、免疫細胞に対して「これは敵、これは味方」と教える、いわば「免疫の学校」の役割を果たしています。この学校の環境を整えることが、免疫の暴走を防ぐ第一歩です。
- 食物繊維を摂る: 野菜、海藻、きのこ、全粒穀物など、善玉菌のエサとなる食物繊維を意識的に増やしましょう。
- 発酵食品をプラス: ヨーグルト、納豆、味噌、キムチなどで、優秀な菌そのものを補給するのも効果的です。
2. 適度な運動:最高の「炎症鎮静剤」
意外にも、ウォーキングなどの定期的な運動は、体内の慢性的な炎症レベルを下げ、興奮しがちな免疫システムを落ち着かせる効果があることが分かっています。スポーツは、体のエネルギーを建設的に使うことで、免疫の無駄遣いを防いでくれるのです。ただし、既に体調が悪い時は、体を休ませることを優先してください。
3. 質の高い睡眠:最高の「メンテナンスタイム」
睡眠中、私たちの体は日中の戦いで傷ついた細胞を修復し、免疫システムを再調整しています。睡眠不足は、免疫のバランスを崩す最大の要因の一つ。ある研究では、睡眠7時間未満の人は、8時間以上寝る人に比べ、風邪をひくリスクが数倍に跳ね上がることが示されています。寝る前のスマホをやめ、自分に合った寝具を見つけるなど、睡眠環境への投資は、最高の健康投資です。
4. ストレス管理:最高の「司令官」
心と体は密接につながっています。慢性的なストレスは、免疫システムの司令塔である自律神経を混乱させ、免疫の暴走を引き起こす引き金になります。寒さに対する過剰な反応も、この一種です。冷水シャワーなどで適度な寒冷ストレスに体を慣らす「強化」は、自律神経を訓練し、不要な免疫反応を抑えるのに役立ちます。趣味の時間やリラックスできる環境を意識的に作り、心のバランスを整えましょう。
みんなの生声
関連Q&A
Q. 免疫老化が高齢者の感染症リスクに与える影響は何か?
A. 免疫老化は、新しいウイルスに対応するT細胞の多様性を失わせ、ワクチンの効果も弱めます。これにより、インフルエンザや肺炎などの感染症にかかりやすくなるだけでなく、重症化しやすくなります。また、免疫システムのバランスが崩れ、軽微な感染に対しても過剰な炎症反応(サイトカインストーム)を引き起こし、かえって体にダメージを与えてしまうリスクも高まります。
Q. なぜ胸腺の萎縮が免疫老化を引き起こすのか?
A. 胸腺は、新しい病原体と戦うための免疫細胞「T細胞」を教育する“学校”のような器官です。この胸腺は思春期をピークに加齢とともに小さく(萎縮)なり、機能が低下します。その結果、新しいT細胞の生産量が減少し、多様性が失われてしまいます。これが、高齢になると新しいタイプのウイルスへの抵抗力が弱まったり、ワクチンの効果が出にくくなったりする「免疫老化」の主な原因の一つと考えられています。
Q. 免疫老化を遅らせるために私ができることは何か?
A. 特定のサプリで免疫老化を逆転させる魔法はありません。重要なのは、体内の慢性的な炎症を抑え、免疫システムのバランスを保つ生活です。具体的には、食物繊維が豊富な食事で腸内環境を整えること、ウォーキングなどの定期的な運動で炎症をコントロールすること、そして質の高い睡眠で免疫システムを修復することです。これらの地道な生活習慣の積み重ねが、免疫老化の進行を穏やかにする最も効果的な方法です。
まとめ
あらためて、今日の話の要点をおさらいします。
- 免疫力は「高める」のではなく「バランスを整える」ことが重要であり、強すぎる免疫はかえって危険。
- 老化による不調は、免疫の「低下」だけでなく、むしろ不要な「暴走」や「過剰反応」が原因。
- 最高の免疫ケアは、腸活・運動・睡眠・ストレス管理という、日々の基本的な生活習慣の中にある。
これまで信じてきた常識が覆され、少し戸惑っているかもしれません。でも、それはあなたが今日から「本当に賢い体調管理」を始められるという、希望のサインでもあります。薬局で免疫サプリを探す時間を、今夜は少しだけ長くお風呂に浸かる時間に変えてみる。湯船の中で、ふぅっと息を吐きながら、一日頑張った自分の体を労わる。そんな、温かく、穏やかな時間こそが、暴走しがちなあなたの免疫システムを優しくなだめ、本来の賢さを取り戻すための、何よりの特効薬になるはずです。